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心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
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〈管理人名〉 O-bake

〈趣味〉 創作とクラシック音楽

〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで

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時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。

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桜が散る季節になった。桜は散ってこそ。
筆の赴くままに一作。童話風。

猫と桜と死神と

 ある町の、小高い丘の上に神社がありました。そこには年老いた桜の木があります。

 太い枝にはつっかい棒で支えがしてあります。そんな枝が何本もあるので、ふだんは、よぼよぼのおばあさんがやっと生きているというふうにしか見えません。

 しかし、花が咲くとがらりと変わります。遠くから見た桜の木は、やわらかなもも色の雲に包まれたようでした。夜になれば、暗さにまぎれてつっかい棒は見えなくなり、うすいピンク色の花だけがぼうっと浮かび上がります。あやしいほどに美しい姿でした。

 そんな夜のことです。真夜中をすぎるころ、ひっそりと静まりかえった神社に、だれかがやってきました。やみ色のマントをはおった死神でした。横に大きく張り出した桜の枝にすわり、大きな鎌を肩にかつぎなおしました。

 まわりの空気がすうっと冷たくなり、花びらが数枚散りましたが、ほかには何もおきませんでした。死神は桜の命を奪いに来たのではありません。ほかの仕事があったのです。

 しばらくすると、ネコがやってきました。片ほうの耳が半分ちぎれています。毛なみもすっかり汚れています。やせ細ったそのネコは片足をひきずりながら、ゆっくりと桜の根元まで来てすわりました。

 死神はこのネコのことをよく知っていました。のらネコとして暮らしていますが、下品ではありません。それどころか、とてもかしこく、時には死神の方が観察されている気持ちになるほどです。ネコの中には、人間の言葉がわかり、気持ちを通じ合わせられるものがいると聞きますが、このネコもそうなのかもしれません。

 死神はネコの横へ飛び降りました。

「待ってたぞ。そろそろ『お迎え』に来てもいいころだろう?」

 ネコは死神を見上げました。片方が青で、もう片方が金色の目です。普通の人間は死神の姿を見ることはできませんが、このネコには見えているようでした。それでもこのネコはまるで平気で、ゴロンと横になり、ゆっくりと前足をなめ始めました。

 死神もネコのとなりに腰をおろし、昔のことを思い出しました。最初にネコと出会ったのはこの桜の下でした。そのときはまだ若くて美しく、桜の花びらが舞い散る中、まるでだれかを待つように、体は横たえながらも頭をまっすぐもたげ、遠いところを見ていました。

 次の春も、このネコは同じ場所、同じかっこうでだれかを待っていました。気になった死神は、そっと近づいてみました。するとネコは色の違う両目でちらりと見上げかと思うと、また前を向きました。死神はネコのすぐそばに腰をおろし、仕事をさぼって夜桜見物を始めました。しかし、朝になってもだれひとり来ませんでした。

 その時から、死神がこの近くで仕事をするたびに、なぜかこのネコと顔を合わせるようになりました。青と金の瞳のおかげですぐに見分けがつきます。時には仕事の邪魔をされることもありましたが、いつも文句を言う前にうまく逃げられてしまいました。

 そんなネコも今ではすっかりおばあさんです。見るからに弱ってしまって、冬がこせるかどうかあぶないほどでした。何とか冬をこして春をむかえたものの、ネコにも自分の寿命はわかっていたのでしょう。最期を迎える時と場所を自分で決めたらしく、桜が咲きほこる夜に、町を見下ろせる神社にやって来たのでした。

 死神はネコに話しかけます。

「前から聞いてみたかったんだが、どうして毎年桜が咲くとここに来るんだ?」

 ネコはだまったままでした。もちろん、ニャアと鳴かれても意味がわかるはずはありません。

「桜の下でお迎えを待つなんて、ネコのくせに風流なことをするなあ」

 死神はつぶやきました。すると、ひとり言のつもりだったのに、ネコは死神を正面からにらみました。死神は驚きました。もっと驚いたことに、ネコの気持ちが流れ込んできたのです。

 ずっと前、ネコは生まれてからしばらくの間だけ、人と暮らしてました。飼い主の女の子はとてもかわいがってくれてネコは幸せでした。

 生まれて初めての春が近づいてきたある日、女の子は言いました。

「桜が咲いたら、町の神社でお花見をしよう。すごくきれいに咲く木があるんだ」

 でも、それから三日後、ネコはダンボール箱に入れられ、わずかばかりのキャットフードといっしょに、見知らぬ土地に置き去りにされました。ネコは死にそうな目にあいながら、もとの町と家を探しあてましたが、もう、女の子の家族はいませんでした。そして、ネコは人と暮らすのをやめました。

 ここで死神は軽くため息をつきました。

「なのに桜がさくと、ついついここに来ちまうわけか。人もネコもまっとうに生きるのは難しいもんだな、まったく」

 死神は複雑な気持ちで桜を見上げました。本来なら、彼の魂は、今ごろあの世で休息していたはずです。しかし、死にきれないほど悔しいことがあったがために、こうしてこの世に残って死神の仕事をすることになりました。

 ネコがあくびをして、疲れきった体を死神に預けました。ネコの命は少しずつ弱くなって、やがて消えてゆきました。うらやましいほどに静かでおだやかな最期だと死神は思いました。

 しばらくすると、小さな光の玉がネコの体から抜け出してきて、死神の前をふわふわと漂いました。死神はかついでいた大鎌をそっと差し出し、救うようにして光を捕まえました。

「心配することはない。ちゃんとあの世まで送り届けてやるから。そこで休んで、幸せだった時間もつらかったこときれいに忘れて、また生まれてくればいい。できれば今度はお互い人として会いたいもんだな」

 死神は立ち上がりました。そしてしみじみと大鎌を見つめました。死神の持つ大鎌には「物事の終わり」と「再生」の二つの意味があるのです。

「オレもそろそろ、昔のことはふっきらないとダメだな」

 ネコの魂をかかえた死神はふわりと舞い上がり、消えました。

 そのとたんに桜の花びらが激しく散り始め、ネコのなきがらは見る見るうちに花びらにうもれてゆきました。
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