『ちっちゃい君へ☆１０のお題』より
配布元　La・campanella　～ラ・カンパネラ～

７．かんろな涙

あのさ、ぼくね、さかなになりたかったんだ。
あんまり水がきれいで、あんまり太陽がまぶしかったから。
それだけだよ。
なのにどうしてぼくの体はしずんじゃったの。
ながされちゃったの。
ぼくって、何か悪いことしたの。

そりゃ大層な悪さだな。
子どもの魂を迎えに来た死神は言った。
お前のおかげで何人泣くと思ってるんだ、と。
すると子どもは言った。
じゃあ、ぼくが代わりに泣く。ぼくのために悲しんでくれる人みんなの分の涙を、ぼくが流す。
死神は答えた。
それで気が済むならそうしな。
そして大鎌を振り上げた。魂を現世から切り離すために。

不思議な話もあるもんでね。
捜索隊の一人が語った。
川から引き上げられたあの子の体をきれいにしてやったんだが、目元だけは何度拭いてもまたぬれているんだよ。
とっくにあの世へ旅立ってるというのに、妙な話さ。
なに、塩辛かったかって？　よせよ、そんな質問は。俺の人格が疑われるだろう。
それでもな、ここだけの話、甘かったよ。まるで上等の水あめだったさ。