『ちっちゃい君へ☆１０のお題』
配布元　La・campanella　～ラ・カンパネラ～

８：すんだ瞳

「あなたのお母さんが救急車で運ばれたから、おばさんが連れて行ってあげる」
学校帰り、道のわきに止めた車の中から女の人が出てきてそう告げた。
黒いランドセルを背負った男の子は、見慣れない顔をしばらく見上げて、うん、とうなづいた。心の中は大好きなお母さんのことでいっぱい。

数日たって、彼の遺体が山中で発見された。

「だって、その人の目は澄んでいて、嘘なんかついてない風に見えたんだよ」
男の子は迎えに来た死神にそう告げた。
「それは、本人が自分の嘘を本気で信じていたからさ。そしていつもは澄んでいるあんたの目がほんの一瞬くもったからなんだ」
死神は淡々と答える。そんなの日常茶飯事だ、とでもいう具合に。