心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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桜が散る前に間に合わせようと、大急ぎで書いてみた。
これまで桜を題材にした小話は二つ……いや、三つ書いているが、まだ飽き足りないようで、毎年この時期になるともの書きの虫が騒ぎ出す。
しかし、美しいものをただ美しいと書くだけでは話にならない。頭をひねり、心のうちと相談し、結局出てきたのがこれ↓。 某長編の番外編っぽくなってしまった。ここに来て下さるお客様ならたいていご存知のはずなので、晒すことにした。もしも目を通してもらえるとしたら、どうか春風のごとき眼差しと心持ちでお願いしたいと思う。
ちなみに死神は出てきませんから。
これまで桜を題材にした小話は二つ……いや、三つ書いているが、まだ飽き足りないようで、毎年この時期になるともの書きの虫が騒ぎ出す。
しかし、美しいものをただ美しいと書くだけでは話にならない。頭をひねり、心のうちと相談し、結局出てきたのがこれ↓。 某長編の番外編っぽくなってしまった。ここに来て下さるお客様ならたいていご存知のはずなので、晒すことにした。もしも目を通してもらえるとしたら、どうか春風のごとき眼差しと心持ちでお願いしたいと思う。
ちなみに死神は出てきませんから。
花
「にいさん、今からチェリープレイスへ行くのかい?」
のどかな春の昼下がりだった。食料品店の主人は暇にまかせ、楽器ケースを抱えた楽士らしき客と話をしていた。
「そのつもりだが、何か問題でも?」
その楽士はくせのある赤銅色の髪をかきあげつつ、興味深そうに店の主人を見やった。
「今から出ると、その町につくのと日が暮れるのはだいたい同じころだろう」
「それで?」
「この時期は心したほうがいい」
「いったい何に?」
「花だよ。チェリーの。あの町のあたりは、昨日今日が満開だと聞いている。毎年その時期になると、決まって何人か頭がやられるんだ」
「花のせいで、か?」
ふむ、と店の主は顎に手を当て、目を伏せた。
「わしも一度遭遇したことがあるが、あの凄さは実際に見ないとわからないだろうなあ」
「それならこの目で確かめるまでさ」
そのマンドリン弾きは機嫌よく店を出ていった。
チェリープレイスの町が見えてきたころはもう宵闇がせまっていた。生暖かい風が運んできたほのかな香りに、フォルス・アビシニエ――マンドリン弾きの男は顔をあげた。その源を辿ろうとあたりを見回し、思わず息を呑んで立ち止まった。視線の先には、すべての枝に小さな花をびっしりつけ、薄闇の中、淡く白く浮かび上がる大木。それが何十本と町の外壁に沿って続いていた。
大地から春の息吹を存分に吸い上げ、その力をあますことなく具現化したなら、あんな風になるのだろうか。
花の塊は、美しいというよりは妖しかった。花とはすなわち、後代へと生命をつなげるための装置だ。目の前の木々は持てる力のすべてを花という装置に注ぐかのように、これでもかと咲き誇る。凄まじいほどの勢いに圧倒され、彼は呆然と立ち尽くした。
――こんな時、故郷の連中なら……。
彼は手を花のほうへのばしかけて止めた。無駄だとわかっていることにエネルギーを使いたくない。というより、これまで何度も味わってきた挫折感と無力感に襲われるのは御免だった。
彼は木々の下を歩いた。圧倒的な生命力の中に混じるわずかな哀しみ。彼は歩みを止めた。目の前を花びらが一枚通り過ぎてゆく。それが合図だったかのように、はらはらと何十枚もの花びらが散り始めた。雪と見紛うほどの落花は、しばらくするとぴたりと止んだ。そしてまた散る。まるで波が押し寄せては引くように、淡いピンクの花びらは、散っては止まり、を何度も繰り返した。
あの微かな哀しみは、散り行く花が放っているのだろうかと、ふと彼は思った。今こうして散り果ててしまっても、次の春が来ればまたこの木は花をつけるだろう。だが、今ここにある花にとっては一度きりの生だ。彼にとってローズという存在が、過去も未来も関係なく、この世にたった一つしかないように。
人が死んだらその魂は遥かな海に還り、ふたたび新たな命として生まれてくると、かつて彼は教えられたが、それは決して同一人物が蘇ることではない。
改めて目前の木々を見上げれば、また花びらが降ってくる。まるで生命の雫が落ちてくるようだった。その雫の行き着く先は本当にあの海なのだろうか。彼には、まるで深い闇に落ちてゆくように感じられた。花びらとともに、自分まで闇に吸い込まれていきそうだった。そして闇の底には彼を待つ二つの邪な目。
彼はびくっとして正気を取り戻した。
――なるほど、危ないというのはこういう意味だったのか。
彼は一番多くの花をつけている木の根もとに腰を下ろした。そしてマンドリンを取り出し、舞い散る花びらを素材に、気分の赴くまま旋律を奏でた。指先から放たれた音は瞬く間に消え、次の音に出番をゆずる。その連続で彼の音楽は成り立つ。咲いては散る花の命と同じだった。
「にいさん、今からチェリープレイスへ行くのかい?」
のどかな春の昼下がりだった。食料品店の主人は暇にまかせ、楽器ケースを抱えた楽士らしき客と話をしていた。
「そのつもりだが、何か問題でも?」
その楽士はくせのある赤銅色の髪をかきあげつつ、興味深そうに店の主人を見やった。
「今から出ると、その町につくのと日が暮れるのはだいたい同じころだろう」
「それで?」
「この時期は心したほうがいい」
「いったい何に?」
「花だよ。チェリーの。あの町のあたりは、昨日今日が満開だと聞いている。毎年その時期になると、決まって何人か頭がやられるんだ」
「花のせいで、か?」
ふむ、と店の主は顎に手を当て、目を伏せた。
「わしも一度遭遇したことがあるが、あの凄さは実際に見ないとわからないだろうなあ」
「それならこの目で確かめるまでさ」
そのマンドリン弾きは機嫌よく店を出ていった。
チェリープレイスの町が見えてきたころはもう宵闇がせまっていた。生暖かい風が運んできたほのかな香りに、フォルス・アビシニエ――マンドリン弾きの男は顔をあげた。その源を辿ろうとあたりを見回し、思わず息を呑んで立ち止まった。視線の先には、すべての枝に小さな花をびっしりつけ、薄闇の中、淡く白く浮かび上がる大木。それが何十本と町の外壁に沿って続いていた。
大地から春の息吹を存分に吸い上げ、その力をあますことなく具現化したなら、あんな風になるのだろうか。
花の塊は、美しいというよりは妖しかった。花とはすなわち、後代へと生命をつなげるための装置だ。目の前の木々は持てる力のすべてを花という装置に注ぐかのように、これでもかと咲き誇る。凄まじいほどの勢いに圧倒され、彼は呆然と立ち尽くした。
――こんな時、故郷の連中なら……。
彼は手を花のほうへのばしかけて止めた。無駄だとわかっていることにエネルギーを使いたくない。というより、これまで何度も味わってきた挫折感と無力感に襲われるのは御免だった。
彼は木々の下を歩いた。圧倒的な生命力の中に混じるわずかな哀しみ。彼は歩みを止めた。目の前を花びらが一枚通り過ぎてゆく。それが合図だったかのように、はらはらと何十枚もの花びらが散り始めた。雪と見紛うほどの落花は、しばらくするとぴたりと止んだ。そしてまた散る。まるで波が押し寄せては引くように、淡いピンクの花びらは、散っては止まり、を何度も繰り返した。
あの微かな哀しみは、散り行く花が放っているのだろうかと、ふと彼は思った。今こうして散り果ててしまっても、次の春が来ればまたこの木は花をつけるだろう。だが、今ここにある花にとっては一度きりの生だ。彼にとってローズという存在が、過去も未来も関係なく、この世にたった一つしかないように。
人が死んだらその魂は遥かな海に還り、ふたたび新たな命として生まれてくると、かつて彼は教えられたが、それは決して同一人物が蘇ることではない。
改めて目前の木々を見上げれば、また花びらが降ってくる。まるで生命の雫が落ちてくるようだった。その雫の行き着く先は本当にあの海なのだろうか。彼には、まるで深い闇に落ちてゆくように感じられた。花びらとともに、自分まで闇に吸い込まれていきそうだった。そして闇の底には彼を待つ二つの邪な目。
彼はびくっとして正気を取り戻した。
――なるほど、危ないというのはこういう意味だったのか。
彼は一番多くの花をつけている木の根もとに腰を下ろした。そしてマンドリンを取り出し、舞い散る花びらを素材に、気分の赴くまま旋律を奏でた。指先から放たれた音は瞬く間に消え、次の音に出番をゆずる。その連続で彼の音楽は成り立つ。咲いては散る花の命と同じだった。
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