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心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake

〈趣味〉 創作とクラシック音楽

〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで

〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。

〈連絡先〉
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びおら弾きの微妙にズレた日々
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タイトルは、あの「くるみ割り人形」の組曲からもらっています。
なんでコンペイトウかって? 古いほうのファンタジア見た人ならわかります。
死神の話・童話風です。

金平糖の踊り

仕事をしようと現世へ現れた死神は、ある家のベランダの前を通り過ぎようとして、ふと止まりました。
一年に数日しかないほどさわやかな春の日だというのに、窓のむこうに悲しそうな女の子が見えたからです。正確には、女の子が見えたというより、悲しい気持ちのかたまりに引き寄せられたのでした。
気になった死神は、部屋の中をのぞいてみました。小学生ぐらいの女の子が、からっぽの水槽の前でさびしそうにうずくまっています。飼っていた魚が寿命を迎えたのかと死神は勝手に納得して、本来の仕事場へ飛んでゆきました。

体を失ってしまった魂をいくつも集め終えて、冥界へ帰る途中、死神はさっきのベランダへ寄ってみました。あの女の子のことが何となく気になったのです。すると、もう日が暮れるというのに、薄暗い部屋の中、その子さっきと同じかっこうのまま水槽の前でじっとしていました。
死神は、半開きになった窓のすき間から、部屋に入りました。この死神は鳥ぐらいの大きさしかありませんし、もともとそのすがたは、普通の人には見えません。それで、彼は女の子の正面、つまり水槽のとなりに下り立ちました。
女の子は冷たい風を感じて、いっしゅん顔を上げましたが、何も見えないので、またすぐひざの間に顔をうずめました。何度もこすった目のまわりがすっかり赤くなっていました。
死神がおどろいたことに、女の子のまわりには、うすい金魚のかげがまとわりついていました。まるでなぐさめているようです。どうやら、女の子の飼っていた金魚にはしっかりと魂がそなわっていたようでした。池や川の主をのぞけば、ふつう、魚にははっきりした魂はありませんから、この金魚はよほどかわいがられていたのでしょう。しっかりと魂の形を持つほどに。
死神は少々感心しました。そして目の前の女の子をもう一度見ました。悲しみがこれだけ深いということは、愛情も同じように深かったということなのです。
「愛しの金魚、か」
思わずつぶやいた死神の心に、あるメロディが浮かびました。彼は手にしていた大鎌を前に突き出しました。それはたちまち横笛に姿を変えました。死神はその笛でメロディをかなでました。水の中で美しいひれをゆらしながら、優雅に泳ぐ金魚のメロディです。
その音は、彼の姿が見えないのと同じく、女の子の耳には届かないはずでした。ですが曲がはじまると、女の子は顔を上げ、じっと耳を澄ませていました。だんだん穏やかな顔になっていきます。女の子は懐かしそうに空の水槽を見つめると言いました。
「楽しい思い出をありがとうね」
その言葉を合図とするかのように、金魚のうすいかげは、女の子のもとをはなれ、死神のところへやってきました。彼は笛を元の大鎌に戻し、金魚の魂をそっとすくい取りました。
「こりゃ、時間外サービスだな。こういうことばっかりしてるから、能率が悪いって上級のヤツから怒られるんだ……」
そうぼやいて冥界へもどる死神は、まんざらでもない顔をしていました。
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