心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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アナライズ
小話更新です。
……いえね、本当は同人誌用のおバカ話を書かなきゃならんのですが、気がついたらこんなに薄暗い話を書いてました。しかも最初の連載予定にはなかった話。(涙) このままでは後が続きませんので、レスキュー用の小話も近々書く予定です。
……いえね、本当は同人誌用のおバカ話を書かなきゃならんのですが、気がついたらこんなに薄暗い話を書いてました。しかも最初の連載予定にはなかった話。(涙) このままでは後が続きませんので、レスキュー用の小話も近々書く予定です。
Broken Wings
「〈外〉にもこんなに穏やかな時があるのね」
桃香が嬉しそうにつぶやいた。並んで立つ然也もまた、上機嫌で頷き、ついで照れ隠しに空を仰いだ。桃香と二人でドームの外へ出てくるのは初めてだった。花見の帰りに、冗談交じりで次の休みには「外」を見物をしようと言ったら、本当にこうなってしまったのだ。
風が防塵コートのすそをはためかす。それでも冬に比べれば、そよ風のようなものだった。
頭上はあいかわらず霞んでいたが、天頂近くはほんのりと明るく、そこに太陽があるとはっきりわかる。足元には、枯草の間から小さな緑が芽吹いていた。空気は冷たく乾いていて、マスク越しに独特のホコリっぽい臭いが肺の中へ入ってゆくのがわかる。どんなに穏やかに見えても長居する場所ではなかった。人々が〈外〉で暮らせないのは、気温の低さと日照不足だけでなく、この粉塵の影響も大きい。火山からの噴出物と過去に人類が撒き散らした汚染物質が混じりあった塵。
塵は廃棄されたビルや店舗や家屋に静かに降り積もり、さらにそれを覆うかのようにツタやコケの仲間らしきものがはびこっている。そういった植物はコンクリの小さな割れ目に根をはり、割れ目を少しずつ広げ、ついにはコンクリそのものを破壊する。
植物に占領され、もはや原型をとどめなくなった建物を見るたび、人間が自然を凌駕したなんて、思い上がりもいいところだと然也は思う。
「あ、鳥!」
桃香が空の一点を指した。白と黒のツートンカラーが鮮やかなツバメが1羽、視界をよぎった。
「こんなに地球の気候が変わっても、生きてるのね」
「自然淘汰の勝ち組だな」
彼らは今もかわらず冬の間は少しでも温暖な南へ、そして春が来れば子育てのためにこの地へ戻ってくる。「こんな荒れた土地で、充分なエサを見つけるなんて大変そうなのに」
「あいつらは、あいつらなりに生きる手立てを見つけたんだろ。だからこうして飛んでくる」
人間が科学と言う名の力技でドームを生み出したのと同じく。
再びツバメが頭上を過ぎる。が、どうも動きが怪しい。バランスを崩し、落ちそうになってはまた舞い上がる。
「どうしたんだ?」
「なんだか酔っ払ってるみたいね」
桃香が気遣わしげに視線で追う。するとツバメはふらふらとドームの壁へ向かって飛んだ。あっと思った時には黒々とそびえる壁に衝突した。
二人は壁際にかけよる。壁に弾き飛ばされたのか、ドームの際から少し離れたところにツバメは落ちていた。
桃香がしゃがんで手をのばす。手袋をはめたまま、両手ですくうように拾い上げた。ツバメはほんのいっしゅんもがいたが、すぐに動かなくなった。頭から血が出ていて、片目をふさぎ、翼が不自然な方向に曲がっている。時おり翼を広げようと、小さな体を震わせる。
「この子……。助かるかしら」
桃香はかすれた声でつぶやいた。いくらなんでもこれは無理だ、と答えようとした然也は、あわてて言葉をのみこんだ。桃香の顔は青ざめ、瞳がうるんでいる。
「オレに見せてみな」
然也は手を差し出した。
「素手じゃよくないわ」
「少しぐらい大丈夫さ」
そう言って然也は半ば強引に桃香の手からツバメを引き取った。そっと手のひらに乗せると、温もりとせわしない鼓動が伝わってきた。同時に生命がつきるまであとわずかだと嫌でもわかる。くちばしをわずかに開き、あえぐように息をするツバメを見ているうち、然也は、自分まで息苦しくなりそうだった。あたかもこの鳥の中に小さな魂が宿っていて、早く飛び立ちたいと訴えかけられているようだった。
「……こいつ、早く自由になりたがってるな」
そうだ、助からないのなら、苦しみは少しでも短いほうがいい。
然也は桃香に背を向けた。すばやくツバメの首をひねった。すうっと命が消えてゆくのが、手のひらから伝わってくる。彼は目を閉じ、気持ちをそらすことなくそれを感じ取った。苦さと甘さの入り混じった、郷愁にも近い奇妙な感覚だった。
「然さん、何したの!」
悲鳴のような桃香の声が耳につきささり、然也の身体がびくっと震えた。
「まだ、生きてたのに! 心臓がトクトク動いてたの、わかったでしょう?」
「それも時間の問題だ」
然也は背を向けたまま答えた。
「安楽死だなんて馬鹿なこと言わないでね。必死に息をして、懸命に生きようとしてたのに」
「苦しみに耐えてただけなんじゃないのか」
「だからって人の手で勝手に死を早めていいの?」
然也はそれには答えず、ツバメの骸(むくろ)を手に朽ちた建物の方へと歩き出した。できれば、少しでも緑の多いところに埋めてやりたかった。桃香はついてこようとせず、その場に立ち尽くしていた。
これで嫌われたかもしれないと、然也の胸に後悔がよぎる。だが、彼にとって他に選択肢はなかった。
彼は父の死を看取った時のことを思い出していた。点滴の管やら呼吸器の管、身体のあちこちにとりつけられた電極の類。屍のようになってもなお生きていなくてはならなかった父が最後には哀れにさえ思えた。父の最期の瞬間には、悲しみよりむしろ安堵を覚え、同時にそう感じる自分をひどく嫌悪したことまで蘇ってきた。
じわりと視界がにじむ。然也は奥歯をかみしめつつ、やはり桃香はついてこなくて正解だったのだと思う。こんなに情けない顔は誰にもさらしたくなかった。
「〈外〉にもこんなに穏やかな時があるのね」
桃香が嬉しそうにつぶやいた。並んで立つ然也もまた、上機嫌で頷き、ついで照れ隠しに空を仰いだ。桃香と二人でドームの外へ出てくるのは初めてだった。花見の帰りに、冗談交じりで次の休みには「外」を見物をしようと言ったら、本当にこうなってしまったのだ。
風が防塵コートのすそをはためかす。それでも冬に比べれば、そよ風のようなものだった。
頭上はあいかわらず霞んでいたが、天頂近くはほんのりと明るく、そこに太陽があるとはっきりわかる。足元には、枯草の間から小さな緑が芽吹いていた。空気は冷たく乾いていて、マスク越しに独特のホコリっぽい臭いが肺の中へ入ってゆくのがわかる。どんなに穏やかに見えても長居する場所ではなかった。人々が〈外〉で暮らせないのは、気温の低さと日照不足だけでなく、この粉塵の影響も大きい。火山からの噴出物と過去に人類が撒き散らした汚染物質が混じりあった塵。
塵は廃棄されたビルや店舗や家屋に静かに降り積もり、さらにそれを覆うかのようにツタやコケの仲間らしきものがはびこっている。そういった植物はコンクリの小さな割れ目に根をはり、割れ目を少しずつ広げ、ついにはコンクリそのものを破壊する。
植物に占領され、もはや原型をとどめなくなった建物を見るたび、人間が自然を凌駕したなんて、思い上がりもいいところだと然也は思う。
「あ、鳥!」
桃香が空の一点を指した。白と黒のツートンカラーが鮮やかなツバメが1羽、視界をよぎった。
「こんなに地球の気候が変わっても、生きてるのね」
「自然淘汰の勝ち組だな」
彼らは今もかわらず冬の間は少しでも温暖な南へ、そして春が来れば子育てのためにこの地へ戻ってくる。「こんな荒れた土地で、充分なエサを見つけるなんて大変そうなのに」
「あいつらは、あいつらなりに生きる手立てを見つけたんだろ。だからこうして飛んでくる」
人間が科学と言う名の力技でドームを生み出したのと同じく。
再びツバメが頭上を過ぎる。が、どうも動きが怪しい。バランスを崩し、落ちそうになってはまた舞い上がる。
「どうしたんだ?」
「なんだか酔っ払ってるみたいね」
桃香が気遣わしげに視線で追う。するとツバメはふらふらとドームの壁へ向かって飛んだ。あっと思った時には黒々とそびえる壁に衝突した。
二人は壁際にかけよる。壁に弾き飛ばされたのか、ドームの際から少し離れたところにツバメは落ちていた。
桃香がしゃがんで手をのばす。手袋をはめたまま、両手ですくうように拾い上げた。ツバメはほんのいっしゅんもがいたが、すぐに動かなくなった。頭から血が出ていて、片目をふさぎ、翼が不自然な方向に曲がっている。時おり翼を広げようと、小さな体を震わせる。
「この子……。助かるかしら」
桃香はかすれた声でつぶやいた。いくらなんでもこれは無理だ、と答えようとした然也は、あわてて言葉をのみこんだ。桃香の顔は青ざめ、瞳がうるんでいる。
「オレに見せてみな」
然也は手を差し出した。
「素手じゃよくないわ」
「少しぐらい大丈夫さ」
そう言って然也は半ば強引に桃香の手からツバメを引き取った。そっと手のひらに乗せると、温もりとせわしない鼓動が伝わってきた。同時に生命がつきるまであとわずかだと嫌でもわかる。くちばしをわずかに開き、あえぐように息をするツバメを見ているうち、然也は、自分まで息苦しくなりそうだった。あたかもこの鳥の中に小さな魂が宿っていて、早く飛び立ちたいと訴えかけられているようだった。
「……こいつ、早く自由になりたがってるな」
そうだ、助からないのなら、苦しみは少しでも短いほうがいい。
然也は桃香に背を向けた。すばやくツバメの首をひねった。すうっと命が消えてゆくのが、手のひらから伝わってくる。彼は目を閉じ、気持ちをそらすことなくそれを感じ取った。苦さと甘さの入り混じった、郷愁にも近い奇妙な感覚だった。
「然さん、何したの!」
悲鳴のような桃香の声が耳につきささり、然也の身体がびくっと震えた。
「まだ、生きてたのに! 心臓がトクトク動いてたの、わかったでしょう?」
「それも時間の問題だ」
然也は背を向けたまま答えた。
「安楽死だなんて馬鹿なこと言わないでね。必死に息をして、懸命に生きようとしてたのに」
「苦しみに耐えてただけなんじゃないのか」
「だからって人の手で勝手に死を早めていいの?」
然也はそれには答えず、ツバメの骸(むくろ)を手に朽ちた建物の方へと歩き出した。できれば、少しでも緑の多いところに埋めてやりたかった。桃香はついてこようとせず、その場に立ち尽くしていた。
これで嫌われたかもしれないと、然也の胸に後悔がよぎる。だが、彼にとって他に選択肢はなかった。
彼は父の死を看取った時のことを思い出していた。点滴の管やら呼吸器の管、身体のあちこちにとりつけられた電極の類。屍のようになってもなお生きていなくてはならなかった父が最後には哀れにさえ思えた。父の最期の瞬間には、悲しみよりむしろ安堵を覚え、同時にそう感じる自分をひどく嫌悪したことまで蘇ってきた。
じわりと視界がにじむ。然也は奥歯をかみしめつつ、やはり桃香はついてこなくて正解だったのだと思う。こんなに情けない顔は誰にもさらしたくなかった。
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