心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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七夕小話、どうにか間に合いました♪
なんといっても七夕ですから、今回の小話は箸休め的な甘さです。
以前のバージョンとほとんど変わりありません。
子どものころ、七月七日の朝に里芋の葉にたまった露で墨をすり、お習字の練習をしたことがあります。美しい字が書けるようになるという言い伝えに則ったわけですが、確かに毛筆は上手くなっても、鉛筆・ペンの類はいつまでたってもからきしですねぇ。
なんといっても七夕ですから、今回の小話は箸休め的な甘さです。
以前のバージョンとほとんど変わりありません。
子どものころ、七月七日の朝に里芋の葉にたまった露で墨をすり、お習字の練習をしたことがあります。美しい字が書けるようになるという言い伝えに則ったわけですが、確かに毛筆は上手くなっても、鉛筆・ペンの類はいつまでたってもからきしですねぇ。
When you wish upon...
カーテンの隙間から、街灯の明かりがわずかに差しこんで、暗い室内をぼんやりと照らしている。そこは小さなキッチン及びバストイレが付いているだけの、ひとり暮らし用の部屋。
窓に向かって左側の壁は天井まで届く薄い棚が占めてた。棚に収まっているのは、様々な情報が記録されている何百枚ものメモリーカード。内容は専門知識のデータが4割、ひいきの作家の著作が2割、お気に入りの音楽が2割、残りはその他雑学とでも言える情報。それから日々の記録。
反対側の壁にはベッドを兼ねたソファと観葉植物の鉢がひとつ。ソファの前の丸テーブルの上には、飲みかけのお茶が入ったカップと半開きのままの情報端末が置きっぱなしになっている。誰かから連絡が入ったことを知らせる光が音もなく点滅していた。壁に掛かった時計は、9時24分を指していた。
こじんまりした玄関のドアが開き、自動的に室内は明るくなった。そして女性の姿が現れる。
桃香だった。一人前の社会人として働くようになってからここで暮らしている。職場はある大企業の中。そこで社員の精神面をサポートする精神衛生管理室で仕事をしている。
仕事から帰ってきた桃香は窓を開けて空気を入れ換え、その間にシャワーを浴びて部屋着に着替えた。それからソファに倒れこんだ。
「疲れた……」
ろくな夕食をとっていないのに何かを食べる気になれないし、ぐったり疲れているはずなのに頭ばかりが冴えている。
今日は終業時間のチャイムが鳴ると同時に、課長クラスの女性が相談に現れた。あいにく上司は研修に出かけていて、部屋にいるのは桃香ひとりだった。彼女の深刻そうな雰囲気を読んだ桃香は、帰り支度をやめて話を聞いた。
彼女によると、ある部下の様子がかんばしくないという。もともとその部下の男性は鬱の症状を抱えているのだが、何とか社会復帰したいという本人と家族の強い希望があって、そこで働いていた。
「最近、まわりとうまくコミュニケーションが取れないのが気がかりだったけど、今日またトラブルを起こしたのよ。これで何回目かしら。もう、こっちが変になりそう」
鬱病はけっして珍しくはないが、治るまでには相当の時間と周囲の理解がいる。なまじ目に見える不具合を抱えていないだけに、やっかいな病なのだ。
これ以上問題を抱えた部下と関わりたくないという態度の彼女に対して、桃香は根気よく説得した。まずは彼女の話をじっくり聞き、対処法を提案し、本人との面会の手はずを整えた。
彼女が帰った後もしばらく資料を検索していると、ドアをノックする音がして今度は顧客サービス部のT部長が姿を見せた。
「遅くまで頑張ってるねぇ。デートの約束はないの?」
桃香の眉間にかすかな皺が寄る。今日は行けなくなったと、さっき然也のCギアに連絡を入れたばかりだ。
「その後、調子はいいんですか?」
「いいわけないだろう。顧客サービス部なんて、とどのつまりは苦情受付部なんだぞ」
「あまり無茶を重ねないで下さいね。ストレスをため込んでもいいことありませんよ」
「桃香ちゃんがデートしてくれたら、ストレスなんて飛んでいくんだがなぁ」
「きっと首も飛びますよ。……ほら、これは今の会話の録音データ」
桃香は小さなデータチップを取り出して見せる。もちろんダミーだが。
「ちぇっ、いつもつれないな。ま、せいぜい仕事頑張れや。彼氏に振られない程度にな」
バタンと閉じられたドアを桃香はしばらく見つめていた。T部長も本当はやっかいごとをいろいろ抱え込み、危ういバランスを取りながら仕事をしているのだ。
そうして職場を出るころには、もう9時を過ぎていたのだった。
桃香はため息をついてソファから下り、窓から空を見上げる。
作り物の夜空には天の川が流れている。霧を吹きかけたような淡い乳白色の川を挟んでひときわ明るく輝く星が二つ。こと座のα星とわし座のα星。
今年は当たり年だ。どんな人間が管理しているかは知らないが、気象管理システムは6~7年に一度の割合で7月7日の夜を晴天にする。本来この時期は梅雨だからと、毎年晴れにはしないらしい。だが、人々は毎年星が出てくることを期待して様々な願い事とイベントを準備する。
「星に願いをかけるなんて、気休めでしかないのに」
気休めでなければ、ただの自己満足だと然也なら言い切るだろう。そう考えて桃香はひとり苦笑した。
相談を受けるたび、心の中に少しずつ澱(おり)のようなものがたまっていく。同時に無力感も。自分がどれだけ頑張っても、その努力が必ずしも報われるとは限らない。それは経験を積み重ねるほど身に染みてわかってくる。
――苦しみにしても喜びにしても、当の本人でしか背負えないものだ。それを他人がどうこうするなんて、無理な話さ。
「本当に然さんの言うとおりかもね」
それでもどこかに違う答えがあると桃香は信じている。外国まで出かけて勉強したいと考えるようになったのも、だからこそだ。
ただ、それが彼のそばにいることより大切かというと、決して答えは出なかった。きっと一生わからないだろうと思う。そもそも同じ天秤にかけられる問題ではないのだから。
せめて彼が「行くな」と言ってくれたらどんなに楽だろうと桃香は少しばかり恨めしく思った。そうすればかえって心を残すことなく出てゆけるはずなのにと。
今夜の街はさぞかしカップルでにぎわっているだろう。桃香は恨めしげに星を見上げ、部屋の中にひっこんだ。
そういえば、然也からの返事が来ていない。別に珍しいことではない。彼のことだからオカリナ作りに没頭しすぎて気づいてないに違いない。
桃香は軽く肩をすくめてCギアをテーブルに置き、キッチンの冷蔵庫からジャスミンティーを取り出した。グラスに注ぐと、たちまち表面に細かい水滴がつく。少しクセのある甘い香りが昔から好きだった。
お茶だけではない。彼女はもともと、ちょっと変わったもの、一クセあるものに興味をひかれた。その傾向は人に対する好みにも現れているようだった。
然也にしたって、最初はなんだか変わった人だなと思ったのが始まりだった。
ところがいつまでたっても、彼の心がどこにあるのかしっかり掴めた気がしない。ついさっきまで傍にいたはずだったのに、次の瞬間にはどこか遠いところへ行ってしまう。おまけにその遠さが半端ない。特に笛を吹き始めたら最後、彼女には決して手の届かない暗い世界へ踏み出してゆくのだ。桃香はそんな彼に憧れると同時に恐かった。彼が恐いのではない。いつか彼が二度と戻って来ない気がして、それが何より恐かった。
実際、彼が歌音のためにレクイエムを吹いたときは、鳥肌が立った。この世とあの世の境、崖っぷちのような場所に立つ彼の姿が脳裡にちらついてしかたなかったのだ。彼はそういう場所まで出かけて歌音を見送っていた。
あの時彼は、待っていれば必ず帰ってくると言ってくれた。でもそう言う彼の目がすでに遠いところを見ていた気がする。
自分はいったい何を求めているのだろうと、桃香は頭をふった。こんなんじゃ、短冊に願い事を書こうにも書けやしない。
テーブルの上のCギアから呼び出し音が聞こえた。グラスを置いてメッセージを読む。
〈桃さん。今すぐ、窓から下を見てみな〉
桃香はさっきまで星を見上げていた窓辺に駆け寄った。下をのぞけば、ニヤっと笑って片手を挙げる青年の姿。
「……然さん!」
「オレは星じゃないからさ、一年に一度なんて悠長なこと言ってられないんだ」
温かな気持ちと一緒に笑いがこみあげてきた。なんだ、事実はこんなにシンプルだったのね、と。思い悩んでいたあれこれが、不意にどうでもよくなってきた。要するに会いたかっただけなのだ。
そしてその願いは短冊に書くまでもなく――。
カーテンの隙間から、街灯の明かりがわずかに差しこんで、暗い室内をぼんやりと照らしている。そこは小さなキッチン及びバストイレが付いているだけの、ひとり暮らし用の部屋。
窓に向かって左側の壁は天井まで届く薄い棚が占めてた。棚に収まっているのは、様々な情報が記録されている何百枚ものメモリーカード。内容は専門知識のデータが4割、ひいきの作家の著作が2割、お気に入りの音楽が2割、残りはその他雑学とでも言える情報。それから日々の記録。
反対側の壁にはベッドを兼ねたソファと観葉植物の鉢がひとつ。ソファの前の丸テーブルの上には、飲みかけのお茶が入ったカップと半開きのままの情報端末が置きっぱなしになっている。誰かから連絡が入ったことを知らせる光が音もなく点滅していた。壁に掛かった時計は、9時24分を指していた。
こじんまりした玄関のドアが開き、自動的に室内は明るくなった。そして女性の姿が現れる。
桃香だった。一人前の社会人として働くようになってからここで暮らしている。職場はある大企業の中。そこで社員の精神面をサポートする精神衛生管理室で仕事をしている。
仕事から帰ってきた桃香は窓を開けて空気を入れ換え、その間にシャワーを浴びて部屋着に着替えた。それからソファに倒れこんだ。
「疲れた……」
ろくな夕食をとっていないのに何かを食べる気になれないし、ぐったり疲れているはずなのに頭ばかりが冴えている。
今日は終業時間のチャイムが鳴ると同時に、課長クラスの女性が相談に現れた。あいにく上司は研修に出かけていて、部屋にいるのは桃香ひとりだった。彼女の深刻そうな雰囲気を読んだ桃香は、帰り支度をやめて話を聞いた。
彼女によると、ある部下の様子がかんばしくないという。もともとその部下の男性は鬱の症状を抱えているのだが、何とか社会復帰したいという本人と家族の強い希望があって、そこで働いていた。
「最近、まわりとうまくコミュニケーションが取れないのが気がかりだったけど、今日またトラブルを起こしたのよ。これで何回目かしら。もう、こっちが変になりそう」
鬱病はけっして珍しくはないが、治るまでには相当の時間と周囲の理解がいる。なまじ目に見える不具合を抱えていないだけに、やっかいな病なのだ。
これ以上問題を抱えた部下と関わりたくないという態度の彼女に対して、桃香は根気よく説得した。まずは彼女の話をじっくり聞き、対処法を提案し、本人との面会の手はずを整えた。
彼女が帰った後もしばらく資料を検索していると、ドアをノックする音がして今度は顧客サービス部のT部長が姿を見せた。
「遅くまで頑張ってるねぇ。デートの約束はないの?」
桃香の眉間にかすかな皺が寄る。今日は行けなくなったと、さっき然也のCギアに連絡を入れたばかりだ。
「その後、調子はいいんですか?」
「いいわけないだろう。顧客サービス部なんて、とどのつまりは苦情受付部なんだぞ」
「あまり無茶を重ねないで下さいね。ストレスをため込んでもいいことありませんよ」
「桃香ちゃんがデートしてくれたら、ストレスなんて飛んでいくんだがなぁ」
「きっと首も飛びますよ。……ほら、これは今の会話の録音データ」
桃香は小さなデータチップを取り出して見せる。もちろんダミーだが。
「ちぇっ、いつもつれないな。ま、せいぜい仕事頑張れや。彼氏に振られない程度にな」
バタンと閉じられたドアを桃香はしばらく見つめていた。T部長も本当はやっかいごとをいろいろ抱え込み、危ういバランスを取りながら仕事をしているのだ。
そうして職場を出るころには、もう9時を過ぎていたのだった。
桃香はため息をついてソファから下り、窓から空を見上げる。
作り物の夜空には天の川が流れている。霧を吹きかけたような淡い乳白色の川を挟んでひときわ明るく輝く星が二つ。こと座のα星とわし座のα星。
今年は当たり年だ。どんな人間が管理しているかは知らないが、気象管理システムは6~7年に一度の割合で7月7日の夜を晴天にする。本来この時期は梅雨だからと、毎年晴れにはしないらしい。だが、人々は毎年星が出てくることを期待して様々な願い事とイベントを準備する。
「星に願いをかけるなんて、気休めでしかないのに」
気休めでなければ、ただの自己満足だと然也なら言い切るだろう。そう考えて桃香はひとり苦笑した。
相談を受けるたび、心の中に少しずつ澱(おり)のようなものがたまっていく。同時に無力感も。自分がどれだけ頑張っても、その努力が必ずしも報われるとは限らない。それは経験を積み重ねるほど身に染みてわかってくる。
――苦しみにしても喜びにしても、当の本人でしか背負えないものだ。それを他人がどうこうするなんて、無理な話さ。
「本当に然さんの言うとおりかもね」
それでもどこかに違う答えがあると桃香は信じている。外国まで出かけて勉強したいと考えるようになったのも、だからこそだ。
ただ、それが彼のそばにいることより大切かというと、決して答えは出なかった。きっと一生わからないだろうと思う。そもそも同じ天秤にかけられる問題ではないのだから。
せめて彼が「行くな」と言ってくれたらどんなに楽だろうと桃香は少しばかり恨めしく思った。そうすればかえって心を残すことなく出てゆけるはずなのにと。
今夜の街はさぞかしカップルでにぎわっているだろう。桃香は恨めしげに星を見上げ、部屋の中にひっこんだ。
そういえば、然也からの返事が来ていない。別に珍しいことではない。彼のことだからオカリナ作りに没頭しすぎて気づいてないに違いない。
桃香は軽く肩をすくめてCギアをテーブルに置き、キッチンの冷蔵庫からジャスミンティーを取り出した。グラスに注ぐと、たちまち表面に細かい水滴がつく。少しクセのある甘い香りが昔から好きだった。
お茶だけではない。彼女はもともと、ちょっと変わったもの、一クセあるものに興味をひかれた。その傾向は人に対する好みにも現れているようだった。
然也にしたって、最初はなんだか変わった人だなと思ったのが始まりだった。
ところがいつまでたっても、彼の心がどこにあるのかしっかり掴めた気がしない。ついさっきまで傍にいたはずだったのに、次の瞬間にはどこか遠いところへ行ってしまう。おまけにその遠さが半端ない。特に笛を吹き始めたら最後、彼女には決して手の届かない暗い世界へ踏み出してゆくのだ。桃香はそんな彼に憧れると同時に恐かった。彼が恐いのではない。いつか彼が二度と戻って来ない気がして、それが何より恐かった。
実際、彼が歌音のためにレクイエムを吹いたときは、鳥肌が立った。この世とあの世の境、崖っぷちのような場所に立つ彼の姿が脳裡にちらついてしかたなかったのだ。彼はそういう場所まで出かけて歌音を見送っていた。
あの時彼は、待っていれば必ず帰ってくると言ってくれた。でもそう言う彼の目がすでに遠いところを見ていた気がする。
自分はいったい何を求めているのだろうと、桃香は頭をふった。こんなんじゃ、短冊に願い事を書こうにも書けやしない。
テーブルの上のCギアから呼び出し音が聞こえた。グラスを置いてメッセージを読む。
〈桃さん。今すぐ、窓から下を見てみな〉
桃香はさっきまで星を見上げていた窓辺に駆け寄った。下をのぞけば、ニヤっと笑って片手を挙げる青年の姿。
「……然さん!」
「オレは星じゃないからさ、一年に一度なんて悠長なこと言ってられないんだ」
温かな気持ちと一緒に笑いがこみあげてきた。なんだ、事実はこんなにシンプルだったのね、と。思い悩んでいたあれこれが、不意にどうでもよくなってきた。要するに会いたかっただけなのだ。
そしてその願いは短冊に書くまでもなく――。
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