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心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
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〈管理人名〉 O-bake

〈趣味〉 創作とクラシック音楽

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ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで

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今年は歩絵夢(ぽえむ)ちゃんに登場してもらった。歩絵夢というのは、その昔、エイプリルフール祭りに投稿した小話の主人公。名前と性格がまるで反対という女の子。

……にしても、ベタな話になっちゃったな。

2008年10月26日、ハロウィン祭りに出した際に改稿。

サンタの代理人

12月24日の夜、歩絵夢(ぽえむ)はベッドの中でうなっていた。お腹は痛いし、気分が悪いし、体に力が入らない。こんな状態が三日も続いてる。学校で流行っていた風邪を拾ってきたらしく、おかげで、ローストチキンも匂いだけで我慢しなくてはいけなかった。
「ついてないなぁ」
 歩絵夢は情けなくて、この日数十回目のため息をつく。
 心当たりといえば、クリスマスをけなしたことぐらいだ。それも誰にも聞こえないぐらいの小さな声で。それでバチが当たるなんて納得できない。
 でも「バチが当たる」というのは日本の神さまに使う言葉だから、キリスト教風にいえば「天罰」かもしれない。だいたい、天罰とかバチとか、そんなの本当にあるのかどうかもわからないし、それよりも、この風邪がどこかへ行ってしまったら、それだけで立派なプレゼントになると歩絵夢は思う。

 少しさかのぼって終業式の日、学校から帰ってきた歩絵夢は母とふたりで買い物に出かけた。行き先は、今年の春できたばかりの巨大ショッピングモールだ。母は冬物バーゲンが目当てだし、歩絵夢はピアノ教室のクリスマス会に持ち寄るプレゼントを選ぶつもりだった。
 モールはすごい賑わいだった。広場に大きなクリスマスツリーがあって、ショーウィンドゥには小型のツリーや星やサンタのモチーフが飾ってある。そこらじゅうのスピーカーから陽気なクリスマスソングが流れ、買い物をする人々も、いつもより浮かれているみたいだった。ツリーのそばにはサンタがいて、道行く子どもたちに風船を配ったり、いっしょに写真に写ったりしている。
 歩絵夢は雑貨店でしゃれたシャープペンシルとメモ帳を買った。母は前からチェックしてあったローラ・アシュレーのスカートを獲得。
 買い物が一段落して、トイレに寄ったときだった。トイレの近くにスタッフルームの扉があった。歩絵夢が通りかかると、ちょうどどこかの店員がドアを開けて中に入るところだった。たまたま部屋の奥がちらりと見えた。そこではなんと、赤と白のコスチュームを来たサンタが付け髭を外しておにぎりを食べていたのだった。
 次の瞬間にはもう、ドアはしまっていた。でももう遅い。歩絵夢の中で何かがぽろりとはがれ落れ落ちた後だった。
 サンタが空想上の人物だなんてことはとっくの昔に知っていたし、こういう場所に現れるサンタの正体がごく普通の人間だってことぐらい、わかっているはずだった。
 けれど、だめなのだ。さっきまで楽しげに輝いていたツリーも、きらびやかなウィンドウも、すっかり色あせてしまった。クリスマスソングだって白々しくひびく。
 クリスマスって、なんて薄っぺらいんだろうと歩絵夢は思った。ハロウィンが終わったと思ったら、さんざん盛り上げておくくせに、イブが来てごちそうとプレゼントが済んでしまえば、とたんに世の中はお正月めがけてまっしぐらだ。
 日が暮れかけて、電飾の光がいっそう目立ってきた。ツリーや星の形が薄暗い中に浮かび上がる。半端に幻想的だから、よけい目くらましに見える。
 それなのに母は、楽しそうにながめて、のんびりとこんなことを言うのだ。
「歩絵夢、あれ見て! すごくきれいね」
「そう?」
 歩絵夢はできるだけそっけなく答えた。
「どうしたの、ご機嫌ななめじゃない」
「さっき、サンタがおにぎり食べてた」
 母はしばらくぽかんとして、それからけらけらと笑い出した。
「そりゃ、サンタ役だって人間なんだからお腹ぐらいすくわよ」
「そういう問題じゃなくて!」
 歩絵夢は言いかけてやめた。母にはわかってもらえない気がする。だから、
「クリスマスなんて、つまんない! なくていいよ」
 自分にしか聞こえないぐらい小さくつぶやいた。その翌日から歩絵夢は胃腸風邪で寝込んだのだった。

 クリスマスの朝、目がさめると窓の外はまだ薄暗かった。家の中は物音ひとつしない。体はだいぶ楽になって、頭はすっきりしていた。すべてが静かでクリアで明るい気分に満ちていた。
 歩絵夢は、枕もとにプレゼントを見つけた。起き上がって手に取り、振ってみる。音はしない。が、クリスマスカードがひらひらと落ちてきた。プレゼントにカードが添えてあるなんてことは初めてだった。歩絵夢は明かりをつけると、カードを開いた。白いソリとトナカイ、そしてサンタが飛び出す。手書きのメッセージも現れた。

君がこのカードを読んでいるということは、起き上がる元気を取りもどしているはずだね。すると普段の自分がどれほどラッキーか気づいているんじゃないかな。そういう目に見えない恵みについて考えるのがクリスマス本来の意味なんだよ。プレゼントは決して形のあるものばかりじゃない。そう思わないか? メリークリスマス!   

 ああ、本物のサンタが来たんだと歩絵夢は直感的に思った。ただし、父さんの姿を借りて。きっとサンタだってはっきりした姿かたちがあるわけじゃなくて、いろんな人の中にクリスマス限定で宿るのだ。
 歩絵夢はくすぐったい気持ちになった。
 勉強机を見ると、ボールペンと修正ペンが使いっぱなしで転がっている。父さんはものを出しっぱなしにする癖があって、母さんによく怒られている。でも、今日のことは黙っていようと思った。なにしろサンタの代理人をしたのだから。
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