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心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake

〈趣味〉 創作とクラシック音楽

〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで

〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。

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びおら弾きの微妙にズレた日々
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ついに始めちゃいました、短編連作。最後まで無事にとおりますように。
今回の分量は原稿用紙換算で10枚強です。タイトルからお分かりかと思いますが、お子様よりもう少し年上の読者を想定しております。
舞台は未来世界ですが、内容は日常のちょっとした事件。

最初の4話は週一更新の予定。それ以降はまだ見通しがたってません。

※次の話とうまくつなげるため、細かいところにちょこっと手を入れました。(1/28)

High Sky, True Blue

 見上げると、灰色にかすむ空が広がっていた。空は大きく高く、吹きすさぶ風は冷たく埃っぽくて、夏だというのに、冬用の、しかも防塵仕様のコートなしではいられなかった。遠くに見える昔の建物や道路は、崩れかけて灰色に沈んでいる。
 桃香(とうか)は、空と大地に飲み込まれそうになって動けなくなった。心の内に懐かしさとも哀しさともつかない甘い気持ちがわき上がってきて、言葉のない世界へ迷いこんでしまう。

 2172年、冬。
 日曜日の公園に降り注ぐ光は穏やかで、さえぎる雲ひとつない青空が広がる。広い自然公園の真ん中には池があり、北側が芝生広場、南から西にかけては雑木林になっていた。池では水鳥が餌をあさり、数人の釣り人がのどかに釣り糸をたらしている。
 桃香は妹の杏樹(あんじゅ)といっしょに、丘の上の展望台から公園を見下ろしていた。彼女たちのほかにも家族連れやカップルが憩っている。二人のまわりはゆったりした時間が流れていた。
「姉さん、あたしの話聞いてる?」
 杏樹の声が耳をさす。
「聞いてるわよ」
 桃香は、記憶の風景を追い払うように軽く頭を振った。なぜ今ごろになって10年も前に見た風景を思い出すのだろうかと。あわてて妹の話に戻る。
「……だから、そういうことは自分で父さんと母さんに伝えるものでしょ」
「そんなこと言われてもさ」
 杏樹は口をとがらせた。
「自分では言いにくいから、わざわざここに来て姉さんに頼んでるのに!」
「困った子ねぇ」
 桃香はわずかに眉を曇らせた。7つ年下の杏樹は、14才で、あと1年で基礎教育が終わる。そろそろ進路を決める時期だったが、どうも親の意向に沿いたくないらしい。
 杏樹がとるコースは大きく分けて三つあった。一つは勉学を続けて将来的に専門分野の研究に進むコース。もう一つは社会で働く上で必要な実務や技術を覚えるコース。さらにもう一つは、特定の専門職に就くため必要な知識を学んだり実習を行ったりするコース。
 両親は、杏樹を専門職コースか、もし本人にやる気があれば研究コースに進ませてもいいと思っているようだった。だが、杏樹本人はどちらに進む気もないという。
「やりたいことって言われてもよくわかんないし、それだったら働きに出てお金を貯めてそれから好きなことを見つけるのもアリでしょ」
「たしかにそんな考え方もあるけど……」
 問題はその考えを親に説明して通用するかどうかだ。そう伝えると、杏樹は展望台の柵に寄りかかり、憂鬱そうに池を見下ろした。それからふとコートのポケットに手をやって、Cギア(コミュニケーション用端末)を取り出した。着信内容をチェックすると電源を切り、乱暴にポケットに戻す。イライラし始めている証拠だ。
「姉さんはいいよね。やりたいことが決まっててさ」 
「そんな、羨むようなことじゃないわ。だって、何をしたいか決めるのはほんのスタート。ゴールするまで大変なんだから」
 桃香は、心のケアを専門にするヒーリングマスターを目指している。両親は当然のように賛成してくれて、ある意味優等生な道を歩んでいる。
「まだスタートも決まってないあたしより、ずっといいじゃん」
「そんなことより杏樹、自分のやりたいことをきちんと父さんたちに言えないなら、この先どんな道に進んだって上手くいかないわよ」
 杏樹はついにぷいっとそっぽを向いた。痛いところを突かれたらしい。
「姉さんの意地悪! そんなんじゃヒーリングマスターになんかなれないよーだ!」
 そう言い放つと、くるりと背を向けて走り出した。
「待ちなさい!」
「ついて来ないで。姉さんなんかに相談するんじゃなかった!」
 杏樹はあっという間に展望台の階段を下り、姿を消してしまった。追いかけようとした桃香のほほを銀色の丸いものがふわりとかすめる。
「あら、風船?」
 反射的に手を伸ばしたが、わずかに届かない。後ろで女の子の声がした。
「だめ、いかないで!」
 うっかり手放してしまったのだろう。愛らしいくまのキャラクターがついた風船は、風に乗ってきらめきながらどんどん高くのぼってゆく。
「あーあ、とんでっちゃったよう……」
 女の子は悔しそうに泣き出し、母親がなだめにかかった。その様子を背中で聞きながら桃香は妹を探しに、階段を駆け下りる。
 展望台を降りると、そこはちょっとした公園になっている。だが、公園のどこにも杏樹はいなかった。雑木林の中を通って池をひと回りする散策路にも、アヒルが戯れる池のほとりにもいなかった。
 桃香は池を前に足を止め、考えをめぐらせる。
 もしかしてひとりで家に帰ってしまったのだろうか。でも意地っ張りなくせに寂しがり屋な杏樹だから、それはまずありえない。だったらどこに……? 
「もう、あの子ったら頭に血が上ると見境がなくなるんだから」
 桃香はふぅ、と息を吐き空を仰いだ。空の中央付近に小さな銀色の球体がある。さっき飛んでいった風船だった。天井があるために、それ以上高く上れないし、風が下から吹き上げてくるばかりなので右にも左にも動けないのだ。
「いくらきれいに見せかけても、結局は作り物なのよ」
 桃香が今見上げている空は、人工的に作られたものだった。昔、まだ空が青かった頃の記憶を再現したにすぎない。
 今をさかのぼること約70年、つまり西暦2100年ごろに地球規模の地殻変動が発生した。各地で火山が次々と噴火をおこし、大気中に大量の灰や塵が放出された。それは今も収まらない。結果、太陽の光がさえぎられて空は年中寒々しい灰色に曇り、大地が冷えて世界の気候が一変した。世界中を食糧不足が襲い、食糧をめぐって各地で紛争が起きた。
 その一方で、余力の残ってた国々は、灰色の空と寒さから逃れるため、科学技術の限りをつくして以前の自然をコピーした。それが都市部を中心に点在する巨大ドームで、最初は農地を確保するため、さらには人々の居住空間を確保するべく数を増やしていった。
 ドームの中では空調が完全にコントロールされ、季節さえ人為的に作り出すことができる。うっかりすると、ドームの外に広がる灰色の冷たい空のことなど忘れてしまいそうだ。しかし、桃香は知っている。ドームに生活の場が移って以来、かつては80歳とも言われた日本人の平均寿命が60歳に縮んだことも、精神面の不調を訴える人々が急増したことも。だからこそ、心の面倒を見るという専門職を選んだのだ。
「でも、妹ひとりの面倒も見切れないなんてね」
 今、こうして作り物の空を見ていると、自分の選択さえも薄っぺらく見えてきて、何ともやりきれない。
 桃香はほんの一瞬目を閉じて、本物の青空を想像しようとした。限りなく高く青くて、人間の都合をまるで無視して雲がわき、雨が降り、時に稲妻を走らせる……。 
「あれ? 姉さんがどうしてそんなところにいるの」
 杏樹だった。桃香はたちまち現実の世界に引き戻される。
「『そんなところ』じゃないでしょ、もう、心配して探し回ったんだから!」
「ごめん……なさい」
 ぼそりとした声が返ってきた。視線はわずかに下を向いて、照れているのがわかる。
「本当は姉さんの言うとおりだってわかってた。でも……」
「わかればもういいの。さ、美味しいものでも食べて帰りましょ」
「うん!」
 杏樹はぱっと顔を輝かせた。ところが、数歩歩いたところで、彼女はいきなり足を止めた。
「どうしたの?」
「Cギアがない……。きっと展望台で落としたんだ!」
「しょうがない子ねぇ」
 文句を言いつつも、〈手のかかる子ほどかわいい〉という諺を思い出す桃香だった。
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