心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
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〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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第4話いきます。
その前に、今回はタイトルに補足を。
anyoneとsomeome、日本語にするとどちらも「誰か」になってしまいますが、実際にはニュアンスが違ってまして、anyoneが「とにかく誰でもいいから誰か」なのに対し、someoneは「名前は出さないが特定の誰か」という意味合いがあります。
ビートルズの"Help!"という曲に、"Help! I need somebody, not anybody~"というフレーズがあります。これは↑の意味で使っている例なんです。
と、今回はそんな話で、ああ、でもここまで前置きしてしまうと話の内容は予測がついてしまいますね。
その前に、今回はタイトルに補足を。
anyoneとsomeome、日本語にするとどちらも「誰か」になってしまいますが、実際にはニュアンスが違ってまして、anyoneが「とにかく誰でもいいから誰か」なのに対し、someoneは「名前は出さないが特定の誰か」という意味合いがあります。
ビートルズの"Help!"という曲に、"Help! I need somebody, not anybody~"というフレーズがあります。これは↑の意味で使っている例なんです。
と、今回はそんな話で、ああ、でもここまで前置きしてしまうと話の内容は予測がついてしまいますね。
Not Anyone, But Someome
コンサートに行った夜、桃香は珍しいほど深く眠れた。翌朝は、日曜日にもかかわらず目覚めたのは日の出より前だった。ベッドの中で、昨日の音の余韻を確かめる。懐かしく切ないひびきはまだ記憶からこぼれ落ちていない。彼女はほっとして、それからふと思いついたことがあって、急いで身支度を整えた。杏樹はまだ熟睡中だった。
彼女が向かった先は自然公園のあるドームだ。気候が異様に厳しくなったこの時代、人々はますます都市に集中して暮らすようになった。膨れ上がった都市は、目的別に分かれたいくつかのドームから成り立つようになった。貴重な食糧を生産するためのドーム、行楽施設用のドーム、居住区専用、商業施設専用、行政機関が集中しているところなどなど。ドーム同士はチューブでつながっているし、循環バスが頻繁に走っているので移動に不便はない。
自然公園についた桃香は夜明けの公園を歩きぬける。散策路沿いの街灯はまだぼんやり光っていた。時おりジョギングをする人や犬の散歩をする人とすれ違う。
池のほとりを過ぎ、展望台へ続く道を歩いていると、ふっと良い香りが漂ってきて桃香は思わず足を止めた。見回すと、林の中にピンクの花をつけた木が見える。
「あれは……」
野生の桃の花だった。
さらに15分ほど歩いて、桃香は「外」へつながる扉の近くまで来た。その扉を開けると、目の前に巨大なドームの壁が広がる。空はなく、蛍光灯で薄暗く照らさた病院のような廊下が続く。ドームの本体の壁と空を演出するための壁のはざまに生じた廊下は、ドーム全体をぐるりと取り囲んでいるはずだった。本物の扉は、ドーム本体の壁に埋め込まれている。その横には外の様子が見える窓がついていた。その大きさは横5メートル、縦3メートルぐらい。強化ガラスは分厚くて、斜めから見ると風景がゆがんで見えるほどだ。
ここに来たのは、10年前、学校の社会見学以来だった。その後はたまに思い出すぐらいだったのに、今朝になって無性に「外」の風景が見たくなったのだ。
休日の早朝ということもあってか、まわりにはほとんど人気(ひとけ)がない。ヘルメットをかぶり、厚手の防塵コートに身を包んだ作業員が数人、恐らくドームの設備を保守するためだろう、扉の向こうへ消えていったぐらいだ。
桃香はガラス窓に近づいた。「外」の夜明けを見るなんて初めてのことだった。暗闇が少しずつ遠ざかって世界は藍色に染まり、やがて灰色を帯びたわびしい風景へと変化してゆく。遠くに、廃棄された建物がいくつも浮かび上がる。時おり強風が吹きわたり、砂ぼこりが舞い上がる。美しさとは程遠いはずなのに、不思議なほど荘厳な風景だった。
桃香の耳の奥で、オカリナの音が鳴りひびく。コンサートの曲も素敵だったが、その前、然也が桃香たちのために吹いてくれた曲がこの風景にはよく似合う。
誰かが近づく足音がした。桃香は少し警戒しつつ振り返った。そしてあっと声をあげた。驚いたのは向こうも同じだったようだ。彼はいったん足を止め、「やあ」と片手を上げて挨拶し、桃香の方へやってきた。
「コンサートのチケット、ありがとう」
「差し入れ、ありがたく頂いたよ」
二人は同時にしゃべり出し、いっしゅん呆気に取られ、笑い出した。
「君がここにいるなんて、考えもしなかったな」
「私も、なんで自分がここにいるのかよくわからないけど、いるわ」
「見かけによらず面白いことを言うんだな」
「見かけによらず……?」
桃香は、わずかに眉をひそめた。然也はあわてて弁解する。
「いや、悪い意味じゃなくてその……なんだ、優等生みたいなお嬢さんが、と思って」
『優等生』は、決して桃香の好きな言葉ではない。むしろ嫌悪感さえ覚えるが、弁解しようとして墓穴を掘っている彼は、怒れるというより微笑ましかった。
「それはきっと、誰かさんがコンサートに呼んだりするからよ」
然也ははっと目を見開く。
「然さんこそ、どうしてここにいるの?」
「オレはいつもの散歩」
「自然公園のついで?」
「いや。本物の自然の中に行くのさ」
そうして、抱えていた防塵コートを掲げ、笑って見せた。
「本当に、あんなところを散歩するわけ?」
桃香は信じられないというふうに窓の外を指した。然也はあっさりうなずく。
「どうして?」
然也はしばらく窓の外を見たまま思案しているようだった。外の風景はどこまでも灰色で、季節柄、わずかに生えている植物も今は茶色に枯れて、余計に荒涼とした空気を感じさせる。
「初めは、この景色に惹かれたんだ」
ずい分間があって、然也は口を開いた。
「子どものころからオレには変なクセがあってさ、廃墟とか荒れた場所を見ると無性にその場に立ちたくなるんだ。どうしたわけかそういうものを懐かしいとさえ思っちまう」
ああ、そうだったのかと桃香は納得した。彼の紡ぎ出す音を聞いたとき、どうしてまっさきに荒れた大地が見えたのか。
ところが然也は意外な台詞を続けた。
「でも、実際に外に立ってみてわかったんだ。そこは見捨てられた場所じゃない。何もかも自然の法則にしたがって動いているだけだ。人の手があまり入らなくなったために、かえって自然本来の力が強くなっているんだ。今はその力を感じたくて外に出る」
なんて人だろうと、桃香は驚く。
「私も……私もついていっていい?」
考えるより先に言葉が桃香の口をついて出た。さすがに然也は目を丸くしてあきれた。
「そりゃ無茶ってもんだ」
「今日でなくても、いつかそのうち」
「しょうがないなぁ」
然也は桃香にコートを差し出した。
「少し大きいかもしれない。だけどオレの経験からすると『いつかそのうち』っていうのは、永遠に来ないんだ」
その帰り道だった。二人はすっかり明るくなった自然公園の中を歩いていた。
「クッキー、ちゃんと焼けてたかしら」
「もちろん」
と、答えて然也は落ち着かなさそうに言葉をついだ。
「……だと思う」
「『思う』って?」
桃香はきょとんと然也の顔を見る。すると彼は慌てて言い訳を始めた。
「いやその、あいつらが――いっしょに吹いてたやつらが凄い勢いでオレが手を出す前に平らげちまって……すまない」
桃香はあきれつつも笑いがこみあげてきた。この彼が、あんなに見事にオカリナを吹きこなし、平気で「外」を散歩するだなんて。
「クッキーのことは気にしないで。良かったらまた焼いて持ってくるから」
「本当に?」
然也は嬉しそうに顔を上げた。その表情は理由もないのにどこか懐かしくて、桃香は少々驚いた。
コンサートに行った夜、桃香は珍しいほど深く眠れた。翌朝は、日曜日にもかかわらず目覚めたのは日の出より前だった。ベッドの中で、昨日の音の余韻を確かめる。懐かしく切ないひびきはまだ記憶からこぼれ落ちていない。彼女はほっとして、それからふと思いついたことがあって、急いで身支度を整えた。杏樹はまだ熟睡中だった。
彼女が向かった先は自然公園のあるドームだ。気候が異様に厳しくなったこの時代、人々はますます都市に集中して暮らすようになった。膨れ上がった都市は、目的別に分かれたいくつかのドームから成り立つようになった。貴重な食糧を生産するためのドーム、行楽施設用のドーム、居住区専用、商業施設専用、行政機関が集中しているところなどなど。ドーム同士はチューブでつながっているし、循環バスが頻繁に走っているので移動に不便はない。
自然公園についた桃香は夜明けの公園を歩きぬける。散策路沿いの街灯はまだぼんやり光っていた。時おりジョギングをする人や犬の散歩をする人とすれ違う。
池のほとりを過ぎ、展望台へ続く道を歩いていると、ふっと良い香りが漂ってきて桃香は思わず足を止めた。見回すと、林の中にピンクの花をつけた木が見える。
「あれは……」
野生の桃の花だった。
さらに15分ほど歩いて、桃香は「外」へつながる扉の近くまで来た。その扉を開けると、目の前に巨大なドームの壁が広がる。空はなく、蛍光灯で薄暗く照らさた病院のような廊下が続く。ドームの本体の壁と空を演出するための壁のはざまに生じた廊下は、ドーム全体をぐるりと取り囲んでいるはずだった。本物の扉は、ドーム本体の壁に埋め込まれている。その横には外の様子が見える窓がついていた。その大きさは横5メートル、縦3メートルぐらい。強化ガラスは分厚くて、斜めから見ると風景がゆがんで見えるほどだ。
ここに来たのは、10年前、学校の社会見学以来だった。その後はたまに思い出すぐらいだったのに、今朝になって無性に「外」の風景が見たくなったのだ。
休日の早朝ということもあってか、まわりにはほとんど人気(ひとけ)がない。ヘルメットをかぶり、厚手の防塵コートに身を包んだ作業員が数人、恐らくドームの設備を保守するためだろう、扉の向こうへ消えていったぐらいだ。
桃香はガラス窓に近づいた。「外」の夜明けを見るなんて初めてのことだった。暗闇が少しずつ遠ざかって世界は藍色に染まり、やがて灰色を帯びたわびしい風景へと変化してゆく。遠くに、廃棄された建物がいくつも浮かび上がる。時おり強風が吹きわたり、砂ぼこりが舞い上がる。美しさとは程遠いはずなのに、不思議なほど荘厳な風景だった。
桃香の耳の奥で、オカリナの音が鳴りひびく。コンサートの曲も素敵だったが、その前、然也が桃香たちのために吹いてくれた曲がこの風景にはよく似合う。
誰かが近づく足音がした。桃香は少し警戒しつつ振り返った。そしてあっと声をあげた。驚いたのは向こうも同じだったようだ。彼はいったん足を止め、「やあ」と片手を上げて挨拶し、桃香の方へやってきた。
「コンサートのチケット、ありがとう」
「差し入れ、ありがたく頂いたよ」
二人は同時にしゃべり出し、いっしゅん呆気に取られ、笑い出した。
「君がここにいるなんて、考えもしなかったな」
「私も、なんで自分がここにいるのかよくわからないけど、いるわ」
「見かけによらず面白いことを言うんだな」
「見かけによらず……?」
桃香は、わずかに眉をひそめた。然也はあわてて弁解する。
「いや、悪い意味じゃなくてその……なんだ、優等生みたいなお嬢さんが、と思って」
『優等生』は、決して桃香の好きな言葉ではない。むしろ嫌悪感さえ覚えるが、弁解しようとして墓穴を掘っている彼は、怒れるというより微笑ましかった。
「それはきっと、誰かさんがコンサートに呼んだりするからよ」
然也ははっと目を見開く。
「然さんこそ、どうしてここにいるの?」
「オレはいつもの散歩」
「自然公園のついで?」
「いや。本物の自然の中に行くのさ」
そうして、抱えていた防塵コートを掲げ、笑って見せた。
「本当に、あんなところを散歩するわけ?」
桃香は信じられないというふうに窓の外を指した。然也はあっさりうなずく。
「どうして?」
然也はしばらく窓の外を見たまま思案しているようだった。外の風景はどこまでも灰色で、季節柄、わずかに生えている植物も今は茶色に枯れて、余計に荒涼とした空気を感じさせる。
「初めは、この景色に惹かれたんだ」
ずい分間があって、然也は口を開いた。
「子どものころからオレには変なクセがあってさ、廃墟とか荒れた場所を見ると無性にその場に立ちたくなるんだ。どうしたわけかそういうものを懐かしいとさえ思っちまう」
ああ、そうだったのかと桃香は納得した。彼の紡ぎ出す音を聞いたとき、どうしてまっさきに荒れた大地が見えたのか。
ところが然也は意外な台詞を続けた。
「でも、実際に外に立ってみてわかったんだ。そこは見捨てられた場所じゃない。何もかも自然の法則にしたがって動いているだけだ。人の手があまり入らなくなったために、かえって自然本来の力が強くなっているんだ。今はその力を感じたくて外に出る」
なんて人だろうと、桃香は驚く。
「私も……私もついていっていい?」
考えるより先に言葉が桃香の口をついて出た。さすがに然也は目を丸くしてあきれた。
「そりゃ無茶ってもんだ」
「今日でなくても、いつかそのうち」
「しょうがないなぁ」
然也は桃香にコートを差し出した。
「少し大きいかもしれない。だけどオレの経験からすると『いつかそのうち』っていうのは、永遠に来ないんだ」
その帰り道だった。二人はすっかり明るくなった自然公園の中を歩いていた。
「クッキー、ちゃんと焼けてたかしら」
「もちろん」
と、答えて然也は落ち着かなさそうに言葉をついだ。
「……だと思う」
「『思う』って?」
桃香はきょとんと然也の顔を見る。すると彼は慌てて言い訳を始めた。
「いやその、あいつらが――いっしょに吹いてたやつらが凄い勢いでオレが手を出す前に平らげちまって……すまない」
桃香はあきれつつも笑いがこみあげてきた。この彼が、あんなに見事にオカリナを吹きこなし、平気で「外」を散歩するだなんて。
「クッキーのことは気にしないで。良かったらまた焼いて持ってくるから」
「本当に?」
然也は嬉しそうに顔を上げた。その表情は理由もないのにどこか懐かしくて、桃香は少々驚いた。
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