さて、しばらくワーグナーを１シーズン休んで、これからどうしようかと悩んでいたが、イタリアオペラの演奏会を迎えるのとほぼ同時に、今後の身の振り方を決めなくてはならない。それで一週間ばかり、いろいろな条件を天秤にかけて考えた。新天地でイタオペを続けるか（これはこれでかなり面白いはず）、再びリングに挑むか。曲の難しさから考えて、来年に戻るのはムリ。今がギリギリのタイミング。

曲の難易度、練習にかける時間の量、パート内の人間関係、難曲に取り組むことで、引き換えにしなくてはならないであろう何か。
頭の中でぐるぐる回しているうちに面倒になってきて、いっそのことノートにメリット・デメリットを書き出し、文字通り天秤にかけようかと思ったが、結局は心の声に従うことにしてワーグナーの世界へ戻ることにした。

これから苦労するぞと思いつつ、いざ戻ってみると、不思議なくらい落ち着いた。イタオペを弾きながら、これまで微妙に形の違うパズルピースを無理矢理はめ込んでいたような違和感を持っていたのが、ようやく正しいピースがおさまったようなフィット感もある。たぶん、これで正解だったのだろう。過去にいろいろ悩まされたこともあったし、これからもめんどくさいことはあるだろうが、結局はここが今の自分にとってのホームオケなのだ。いるべき場所にいる感じがするし、ここで面倒な出来事に遭遇したとしても、それは起こるべくして起きることだ。

……思えば遠くへ来たもんだ。と、普通のオケではありえないほど分厚くて音符の多い譜面を見ながら思う。リングをやっちゃったら、もう、マーラーだろうがブルックナーだろうが恐いものなしじゃないだろうか。いやでも、リヒャルト・シュトラウスはきっとツラいだろうな。ブラームスもやっぱりツラいだろうな。
ひとつ言えるのは、音楽の神様に首根っこを捕まえられてしまったか、リングの呪いにかかったか、いずれにしても引き返せない沼にはまった人間の一人だということ。