心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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2005年スプリングパーティで投稿した作品で、歩絵夢ちゃん初登場の話です。
このときは使い切りのキャラクターの予定だったのですが……。
このときは使い切りのキャラクターの予定だったのですが……。
ぼやける境界
「今多歩絵夢さん」
「……はい」
そのとたん、数人のクラスメートからクスクス笑いがもれた。「ぽえむだって!」とひそひそささやく声がする。まただ、と歩絵夢はうんざりした。新学期を迎えるたびに繰り返される光景。
彼女の名前をつけたのは、メルヘン好きな母。小さい頃は「可愛い名前ねえ」と近所のおばさん達に羨ましがられたものだった。でも本人は自分の名前を恥ずかしくこそ思うが、可愛いと思ったことは一度もない。
今どき「ぽえむ」なんて流行らないし、何より彼女は性分的にメルヘンチックなものが嫌いだったのだ。
幼いときからフリルのついたスカートやブラウスを身につけようとせず、父親を悲しませた。
幼稚園のころはお姫様が出てくるおとぎ話でもなく、動物が主人公のほのぼのした話でもなく、もっぱら虫の本や恐竜図鑑を見ていた。
少し大きくなると、子ども向けの科学絵本。それから伝記や歴史の本。
歩絵夢は名前に反して、現実に世の中がどうなかっているかを知るのが大好きだった。メルヘンやファンタジーなんて、どこかの深窓のお嬢様が暇つぶしに読む話だと思っていた。
そんな歩絵夢に不思議な事件が起きたのは中学3年の夏休みのことだった。
K塾の夏期講習からの帰り、歩絵夢はいつものように一人で電車に乗りこんだ。珍しく空いていて、その車両には他に誰もいなかった。
次の駅で降りると言う時になって、男が一人、隣の車両から移ってきた。中年と老年の境目に立っている年頃だった。白髪交じりの髪の毛をジョン・レノンみたいに伸ばしていて、半袖ジャケットにスラックスという格好。丸眼鏡はなかったが。
何気なくその男を見上げた歩絵夢は驚いた。ひどく日本人離れした瞳の色をしていて、しかも知り合いの誰かとよく似ている、明るい栗色の瞳。英語ではヘーゼルって言ったっけ、とぼんやり思い出す。彼女は男の瞳に吸い付けられたまま視線がそらせなくなった。似ている誰かを思い出そうとしていたせいもあるが、何より男が歩絵夢から目を離さなかった。
その男は引き寄せられるように歩絵夢のそばに来た。どうしようと思いながらも、あからさまに逃げたら「あなた、危ないオジサンね」と言うにも等しので、彼女はじっとしていた。というより、心のどこかで「動くな」と声が聞こえたような気がしたのだ。
男は知り合いのそばにでも座るような気楽さで歩絵夢の隣に腰をおろした。
「お嬢さん、可愛いねぇ。こんなに綺麗な娘さんは見たことがないなあ」
黙っていると男はさらににじり寄って来る。やっぱり逃げればよかったと歩絵夢は後悔した。
「年はいくつ? 中学生ぐらい? ねえ、今夜12時に、S駅のホームで会おうよ」
かわいそうに、このオジサンはもうボケが来ているんだと思って、歩絵夢は何を言われてもひたすら首を横に振ることにした。
「べつに何もしないから。それにしても綺麗だなあ。ねぇ、お母さんの化粧台から、口紅をかりて、こう、すうっとひいてみてよ。」
男はうっとりと目線を遠くにさまよわせながら言うが、歩絵夢は下を向いて、聞こえないふりをした。あと少しで駅につく。それまでの我慢だ。
すると男は不意に歩絵夢の顔をのぞきこんだ。
「実に不思議だ。お嬢さんに会えたのが奇跡みたいだよ。あなたは奇跡を信じる?」
「信じません」
歩絵夢はきっぱり言い、まただんまりを決め込んだ。男は哀願するようにしつこく食い下がった。
「一生のお願いだから、S駅に来てよ。ちょっとぐらい家を抜けられるでしょ。今夜は特別な夜になるんだよ」
奇跡だの特別な夜だのって、おとぎ話じゃあるまいし、と歩絵夢は心の中で冷ややかに突っ込んだ。
列車のスピードが落ち、車掌のアナウンスが流れた。
「まもなくS駅に到着です」
「あの、私もう降りますから」
歩絵夢はさっと席を立ち、ドアが開くと早々にホームへ逃げ出した。
ちらりと振り返ると、さっきの男は悲しそうに歩絵夢を見送っていた。
その夜、歩絵夢はいつも通り講習の予習を終えてベッドにもぐりこんだ。
夢の中で、彼女は真夜中のS駅に立っていた。しかも母のお気に入りのローズピンクの口紅をつけて。
ホーム中央のベンチにはあの男が座っていた。歩絵夢が近づくと、立ち上がって嬉しそうに笑った。その後ろに終電のヘッドライトが見えた。そのままこっちに寄ってくるかと思ったら、男はホームの端へと歩いてゆく。一度立ち止まり、歩絵夢に向かってさよならとでもいうように歩絵夢に向かって手を振った。ライトがまぶしくて、男は黒い影になっていた。
次の瞬間、彼は線路へと飛び降りた。そのすぐ後に電車が入ってくる。すさまじいブレーキ音。
歩絵夢は悲鳴を上げ、目を覚ました。しばらく心臓がドキドキ音を立てていたが、それがおさまると歩絵夢は自分を慰めようとしてつぶやいた。
「なんだ、ただの夢じゃないの」
翌日、朝ごはんを食べながらテレビを見ている歩絵夢の目に、見慣れたプラットホームが映った。ニュースキャスターが記事を読み上げる。
「それでは地方のニュースです。今日、午前0時10分ごろ、中央本線のS駅で男性が終電に跳ねられました。目撃者の情報から自殺と考えられていますが……」
歩絵夢の手から食べかけのパンが落ちた。突然テレビの画面がにじんでぼけた。現実と夢と記憶の境界線がぼやけてゆく。
彼女は自分でも気づかないうちに涙をこぼしていた。
「今多歩絵夢さん」
「……はい」
そのとたん、数人のクラスメートからクスクス笑いがもれた。「ぽえむだって!」とひそひそささやく声がする。まただ、と歩絵夢はうんざりした。新学期を迎えるたびに繰り返される光景。
彼女の名前をつけたのは、メルヘン好きな母。小さい頃は「可愛い名前ねえ」と近所のおばさん達に羨ましがられたものだった。でも本人は自分の名前を恥ずかしくこそ思うが、可愛いと思ったことは一度もない。
今どき「ぽえむ」なんて流行らないし、何より彼女は性分的にメルヘンチックなものが嫌いだったのだ。
幼いときからフリルのついたスカートやブラウスを身につけようとせず、父親を悲しませた。
幼稚園のころはお姫様が出てくるおとぎ話でもなく、動物が主人公のほのぼのした話でもなく、もっぱら虫の本や恐竜図鑑を見ていた。
少し大きくなると、子ども向けの科学絵本。それから伝記や歴史の本。
歩絵夢は名前に反して、現実に世の中がどうなかっているかを知るのが大好きだった。メルヘンやファンタジーなんて、どこかの深窓のお嬢様が暇つぶしに読む話だと思っていた。
そんな歩絵夢に不思議な事件が起きたのは中学3年の夏休みのことだった。
K塾の夏期講習からの帰り、歩絵夢はいつものように一人で電車に乗りこんだ。珍しく空いていて、その車両には他に誰もいなかった。
次の駅で降りると言う時になって、男が一人、隣の車両から移ってきた。中年と老年の境目に立っている年頃だった。白髪交じりの髪の毛をジョン・レノンみたいに伸ばしていて、半袖ジャケットにスラックスという格好。丸眼鏡はなかったが。
何気なくその男を見上げた歩絵夢は驚いた。ひどく日本人離れした瞳の色をしていて、しかも知り合いの誰かとよく似ている、明るい栗色の瞳。英語ではヘーゼルって言ったっけ、とぼんやり思い出す。彼女は男の瞳に吸い付けられたまま視線がそらせなくなった。似ている誰かを思い出そうとしていたせいもあるが、何より男が歩絵夢から目を離さなかった。
その男は引き寄せられるように歩絵夢のそばに来た。どうしようと思いながらも、あからさまに逃げたら「あなた、危ないオジサンね」と言うにも等しので、彼女はじっとしていた。というより、心のどこかで「動くな」と声が聞こえたような気がしたのだ。
男は知り合いのそばにでも座るような気楽さで歩絵夢の隣に腰をおろした。
「お嬢さん、可愛いねぇ。こんなに綺麗な娘さんは見たことがないなあ」
黙っていると男はさらににじり寄って来る。やっぱり逃げればよかったと歩絵夢は後悔した。
「年はいくつ? 中学生ぐらい? ねえ、今夜12時に、S駅のホームで会おうよ」
かわいそうに、このオジサンはもうボケが来ているんだと思って、歩絵夢は何を言われてもひたすら首を横に振ることにした。
「べつに何もしないから。それにしても綺麗だなあ。ねぇ、お母さんの化粧台から、口紅をかりて、こう、すうっとひいてみてよ。」
男はうっとりと目線を遠くにさまよわせながら言うが、歩絵夢は下を向いて、聞こえないふりをした。あと少しで駅につく。それまでの我慢だ。
すると男は不意に歩絵夢の顔をのぞきこんだ。
「実に不思議だ。お嬢さんに会えたのが奇跡みたいだよ。あなたは奇跡を信じる?」
「信じません」
歩絵夢はきっぱり言い、まただんまりを決め込んだ。男は哀願するようにしつこく食い下がった。
「一生のお願いだから、S駅に来てよ。ちょっとぐらい家を抜けられるでしょ。今夜は特別な夜になるんだよ」
奇跡だの特別な夜だのって、おとぎ話じゃあるまいし、と歩絵夢は心の中で冷ややかに突っ込んだ。
列車のスピードが落ち、車掌のアナウンスが流れた。
「まもなくS駅に到着です」
「あの、私もう降りますから」
歩絵夢はさっと席を立ち、ドアが開くと早々にホームへ逃げ出した。
ちらりと振り返ると、さっきの男は悲しそうに歩絵夢を見送っていた。
その夜、歩絵夢はいつも通り講習の予習を終えてベッドにもぐりこんだ。
夢の中で、彼女は真夜中のS駅に立っていた。しかも母のお気に入りのローズピンクの口紅をつけて。
ホーム中央のベンチにはあの男が座っていた。歩絵夢が近づくと、立ち上がって嬉しそうに笑った。その後ろに終電のヘッドライトが見えた。そのままこっちに寄ってくるかと思ったら、男はホームの端へと歩いてゆく。一度立ち止まり、歩絵夢に向かってさよならとでもいうように歩絵夢に向かって手を振った。ライトがまぶしくて、男は黒い影になっていた。
次の瞬間、彼は線路へと飛び降りた。そのすぐ後に電車が入ってくる。すさまじいブレーキ音。
歩絵夢は悲鳴を上げ、目を覚ました。しばらく心臓がドキドキ音を立てていたが、それがおさまると歩絵夢は自分を慰めようとしてつぶやいた。
「なんだ、ただの夢じゃないの」
翌日、朝ごはんを食べながらテレビを見ている歩絵夢の目に、見慣れたプラットホームが映った。ニュースキャスターが記事を読み上げる。
「それでは地方のニュースです。今日、午前0時10分ごろ、中央本線のS駅で男性が終電に跳ねられました。目撃者の情報から自殺と考えられていますが……」
歩絵夢の手から食べかけのパンが落ちた。突然テレビの画面がにじんでぼけた。現実と夢と記憶の境界線がぼやけてゆく。
彼女は自分でも気づかないうちに涙をこぼしていた。
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