心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
アーカイブ
アクセス解析
アナライズ
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
最後はOパート。杏樹ちゃんの視点です。「花より団子」を地でいってます。
でもSideOって何なんでしょうね(汗)
でもSideOって何なんでしょうね(汗)
A trace of fragrance
Side:O 杏樹
「うそ……。もう暗くなってる」
学校の図書館から出てきた杏樹は思わずつぶやいた。隣を歩く友人も大きくうなずく。
「早いよねー。ちょっとレポートの調べ物してただけなのに、もう5時をまわっちゃってるし」
まわりの景色が暗がりに沈んでゆこうとしているのに対し、西空だけがまばゆいばかりの黄金色に輝いていた。さぁっと風が吹いた。
「あ。いい匂い」
「キンモクセイかな」
友人が道のななめ向こうの樹木を指す。こんもりしげった深緑色の葉のすきまのあちこちに、夕日を思わせる黄金色の粒がびっしりついている。杏樹は息を呑んだ。
「うわあ、あんなところに生えてたなんて全然知らなかった」
「わたしも!」
もっとも、桜だって花の季節が来るまではどこに木があるのか気にもかけない杏樹だ。しかし食い気は少しばかり自慢できる。
「キンモクセイっていえばさ、季節限定でプレミアムアイスが出てるんだよ」
「つまり、この香りのアイス?」
「うん! 確か昨日からミニレスト系のストアで扱っているんだ」
「さすが杏樹、甘いもの系のチェックはぬかりないね」
「まぁ、それほどでも」
杏樹は少しだけ照れた。実を言えば、この手の情報に一番聡いのは彼女が知っている限り姉の桃香であって、杏樹本人はいつも教えてもらう側だった。ただし、それも桃香が家を出て一人暮らしを始めた半年前までのことだ。
(そういえば、最近なかなか姉さん帰ってこないな。仕事が大変なのかな)
「この近くにミニレスト系の店、あったっけ?」
「んー、ちょっと待ってて」
杏樹はCギアを取り出してストアの検索を始めた。
「やだなぁ。一番近い店でも歩くにはちょっと遠いよ」
「そう?」
友人も杏樹のCギアをのぞきこむ。
「でもここなら、52番ルートのバスを使ったらすぐじゃない?」
「今から行く?」
杏樹の誘いを受けて友人は時計を見た。
「ごめん、今日は7時までに帰りたいんだ」
杏樹はなーんだという顔をするが、すぐににやりと笑った。
「どうせ例のクイズ番組が見たいんでしょ。ナントカって男の子が出てくるやつ」
「あはは。お見通し……だよね」
バス停まで来ると二人は別れた。友人は31番ルートのバスで隣のドームにある自宅へ帰り、杏樹は52番に乗って一足先に季節限定商品を試すつもりだった。
「うそ……」
杏樹はストアの前で固まっていた。いや、ストアだった建物と言うべきかもしれない。中は暗く、看板の取り払われた出入り口は、それとわかるようにロックされている。ウインドウには張り紙が1枚。
「昨日で閉店? 信じられない!」
その時、後ろから大きな人影が迫ってきた。反射的によけようとすると、聞き覚えのあるのんびりした声が耳に届いた。
「あれ? 杏樹さんでしょ」
「え?」
「こんなところでどうしたんですか」
桂介だった。
「えっと、季節限定のプレミアムアイスを探しに来たんですけど、まさかお店が潰れてるなんて……」
杏樹はそこだけ暗く沈んだ建物を指した。桂介はああ、とうなずいた。
「その店ね、一ヶ月前から閉店の予告をしていて、昨日は最後の売り尽くしセールですごい人だったんですよ」
でも杏樹にとって重要なのは今開いてるかどうかだ。
「あの、桂介さんこの辺に詳しいですか? もし知ってたらここから一番近いミニレスト系のお店を教えて欲しいんですけど」
「詳しいも何も、ここ、仕事場の近くだからさ、だいたいの地理はわかるよ」
桂介の仕事場が何だったか思い出した杏樹は顔が熱くなるのを感じた。つまり然也もそこで働いているということだ。次に何を言おうか迷っていると、桂介が口を開いた。
「ちょうど夕食の買出しに行くところなんで、杏樹さんの探してる店まで一緒に行ってもいいですよ」
「え、じゃあ……その、お願いします」
歩きながら、杏樹はオカリナ工房のことについてあれこれたずねた。どんな人がいてどんな作業をするのか。
「いつも夜まで仕事があるんですか?」
「うーん。窯でオカリナを焼くときは交替で火の番をするけど、そうでない時はたいてい定時に帰れるかなぁ」
「じゃあ、今日は火の当番?」
「じゃなくて、実は然さんに付き合っちゃっただけで」
「へ?」
「然さん、時々無茶っていうか暴走するんですよ。自覚なしに」
「暴走?」
「オカリナ作りにのめりこみ過ぎて、寝食忘れちゃうっていうのかな。時々そんなふうになることがあるから、気をつけてるんです」
「桂介さんが然さんのことを?」
杏樹の驚きをよそに、桂介は素直にうなずいた。
「音無さんに頼まれているせいもあるし。あ、音無さんて工房の責任者ね」
「ふーん……」
杏樹が知っている然也からは想像しにくい。彼はどんな顔をしてオカリナを作っているのだろう。会うたびに、楽しそうに憎まれ口をたたくあの姿とどんな風に違うのだろうか。
「ね、桂介さん?」
杏樹は横に並んで歩く桂介を見上げた。
「このあと工房までついていったら迷惑かな」
桂介はちょっと慌てたようだった。
「で、でも、プレミアムアイス、工房に着く前に溶けちゃいますよ」
「大丈夫。今どきの保冷パックをなめちゃいけないんだから」
「そうですねぇ……、まあ、今行っても俺と然さんしかいないし。でも何で突然そんな話になるんですか」
「社会勉強」
しれっと杏樹は答えた。
杏樹の胸中を知らない桂介は舞い上がりそうな気分で歩いているのたが、杏樹はそれを察するほど圭介に関心をはらっていなかった。
「うそ……」
工房の中で杏樹と桂介は同時に声をあげた。二人が然也の姿を探して工房内をあちこち探しまわったあげく、桂介が自分のCギアをチェックしたら、然也からのメッセージが入っていたのだ。
【急用につき外出中。いつ戻れるかわからないから、買出しの食料はお前が持っていってくれ 然也】
「然さん……」
「あの人、今日はまだメシを食ってないはずなんだけど」
桂介ががっくりと肩を落とす。理由は全然違うにせよ、脱力という意味では杏樹もまったく同じだった。
しばらくして桂介が顔をあげた。意外にも明るい表情だった。
「杏樹さん、これ二人で食べましょうよ」
桂介は夕食とプレミアムアイスの入った袋を掲げた。
「あはは。ある意味やけ食い大会かもね」
杏樹だって笑うしかなかった。
それにしても、と後々まで彼女はキンモクセイの香りを感じるたびに気になるのだった。然也が夕食を犠牲にしてまで済ませなくちゃいけない「急用」とは何だったのだろう。
Side:O 杏樹
「うそ……。もう暗くなってる」
学校の図書館から出てきた杏樹は思わずつぶやいた。隣を歩く友人も大きくうなずく。
「早いよねー。ちょっとレポートの調べ物してただけなのに、もう5時をまわっちゃってるし」
まわりの景色が暗がりに沈んでゆこうとしているのに対し、西空だけがまばゆいばかりの黄金色に輝いていた。さぁっと風が吹いた。
「あ。いい匂い」
「キンモクセイかな」
友人が道のななめ向こうの樹木を指す。こんもりしげった深緑色の葉のすきまのあちこちに、夕日を思わせる黄金色の粒がびっしりついている。杏樹は息を呑んだ。
「うわあ、あんなところに生えてたなんて全然知らなかった」
「わたしも!」
もっとも、桜だって花の季節が来るまではどこに木があるのか気にもかけない杏樹だ。しかし食い気は少しばかり自慢できる。
「キンモクセイっていえばさ、季節限定でプレミアムアイスが出てるんだよ」
「つまり、この香りのアイス?」
「うん! 確か昨日からミニレスト系のストアで扱っているんだ」
「さすが杏樹、甘いもの系のチェックはぬかりないね」
「まぁ、それほどでも」
杏樹は少しだけ照れた。実を言えば、この手の情報に一番聡いのは彼女が知っている限り姉の桃香であって、杏樹本人はいつも教えてもらう側だった。ただし、それも桃香が家を出て一人暮らしを始めた半年前までのことだ。
(そういえば、最近なかなか姉さん帰ってこないな。仕事が大変なのかな)
「この近くにミニレスト系の店、あったっけ?」
「んー、ちょっと待ってて」
杏樹はCギアを取り出してストアの検索を始めた。
「やだなぁ。一番近い店でも歩くにはちょっと遠いよ」
「そう?」
友人も杏樹のCギアをのぞきこむ。
「でもここなら、52番ルートのバスを使ったらすぐじゃない?」
「今から行く?」
杏樹の誘いを受けて友人は時計を見た。
「ごめん、今日は7時までに帰りたいんだ」
杏樹はなーんだという顔をするが、すぐににやりと笑った。
「どうせ例のクイズ番組が見たいんでしょ。ナントカって男の子が出てくるやつ」
「あはは。お見通し……だよね」
バス停まで来ると二人は別れた。友人は31番ルートのバスで隣のドームにある自宅へ帰り、杏樹は52番に乗って一足先に季節限定商品を試すつもりだった。
「うそ……」
杏樹はストアの前で固まっていた。いや、ストアだった建物と言うべきかもしれない。中は暗く、看板の取り払われた出入り口は、それとわかるようにロックされている。ウインドウには張り紙が1枚。
「昨日で閉店? 信じられない!」
その時、後ろから大きな人影が迫ってきた。反射的によけようとすると、聞き覚えのあるのんびりした声が耳に届いた。
「あれ? 杏樹さんでしょ」
「え?」
「こんなところでどうしたんですか」
桂介だった。
「えっと、季節限定のプレミアムアイスを探しに来たんですけど、まさかお店が潰れてるなんて……」
杏樹はそこだけ暗く沈んだ建物を指した。桂介はああ、とうなずいた。
「その店ね、一ヶ月前から閉店の予告をしていて、昨日は最後の売り尽くしセールですごい人だったんですよ」
でも杏樹にとって重要なのは今開いてるかどうかだ。
「あの、桂介さんこの辺に詳しいですか? もし知ってたらここから一番近いミニレスト系のお店を教えて欲しいんですけど」
「詳しいも何も、ここ、仕事場の近くだからさ、だいたいの地理はわかるよ」
桂介の仕事場が何だったか思い出した杏樹は顔が熱くなるのを感じた。つまり然也もそこで働いているということだ。次に何を言おうか迷っていると、桂介が口を開いた。
「ちょうど夕食の買出しに行くところなんで、杏樹さんの探してる店まで一緒に行ってもいいですよ」
「え、じゃあ……その、お願いします」
歩きながら、杏樹はオカリナ工房のことについてあれこれたずねた。どんな人がいてどんな作業をするのか。
「いつも夜まで仕事があるんですか?」
「うーん。窯でオカリナを焼くときは交替で火の番をするけど、そうでない時はたいてい定時に帰れるかなぁ」
「じゃあ、今日は火の当番?」
「じゃなくて、実は然さんに付き合っちゃっただけで」
「へ?」
「然さん、時々無茶っていうか暴走するんですよ。自覚なしに」
「暴走?」
「オカリナ作りにのめりこみ過ぎて、寝食忘れちゃうっていうのかな。時々そんなふうになることがあるから、気をつけてるんです」
「桂介さんが然さんのことを?」
杏樹の驚きをよそに、桂介は素直にうなずいた。
「音無さんに頼まれているせいもあるし。あ、音無さんて工房の責任者ね」
「ふーん……」
杏樹が知っている然也からは想像しにくい。彼はどんな顔をしてオカリナを作っているのだろう。会うたびに、楽しそうに憎まれ口をたたくあの姿とどんな風に違うのだろうか。
「ね、桂介さん?」
杏樹は横に並んで歩く桂介を見上げた。
「このあと工房までついていったら迷惑かな」
桂介はちょっと慌てたようだった。
「で、でも、プレミアムアイス、工房に着く前に溶けちゃいますよ」
「大丈夫。今どきの保冷パックをなめちゃいけないんだから」
「そうですねぇ……、まあ、今行っても俺と然さんしかいないし。でも何で突然そんな話になるんですか」
「社会勉強」
しれっと杏樹は答えた。
杏樹の胸中を知らない桂介は舞い上がりそうな気分で歩いているのたが、杏樹はそれを察するほど圭介に関心をはらっていなかった。
「うそ……」
工房の中で杏樹と桂介は同時に声をあげた。二人が然也の姿を探して工房内をあちこち探しまわったあげく、桂介が自分のCギアをチェックしたら、然也からのメッセージが入っていたのだ。
【急用につき外出中。いつ戻れるかわからないから、買出しの食料はお前が持っていってくれ 然也】
「然さん……」
「あの人、今日はまだメシを食ってないはずなんだけど」
桂介ががっくりと肩を落とす。理由は全然違うにせよ、脱力という意味では杏樹もまったく同じだった。
しばらくして桂介が顔をあげた。意外にも明るい表情だった。
「杏樹さん、これ二人で食べましょうよ」
桂介は夕食とプレミアムアイスの入った袋を掲げた。
「あはは。ある意味やけ食い大会かもね」
杏樹だって笑うしかなかった。
それにしても、と後々まで彼女はキンモクセイの香りを感じるたびに気になるのだった。然也が夕食を犠牲にしてまで済ませなくちゃいけない「急用」とは何だったのだろう。
PR