心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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次はBパートいきます。
え? B面て言ったほうがいいですか。レコード盤が骨董品になりつつある今じゃ、そういう言葉も死語になりつつありますね。
これは然也視点です。オカリナ工房での一コマ。
え? B面て言ったほうがいいですか。レコード盤が骨董品になりつつある今じゃ、そういう言葉も死語になりつつありますね。
これは然也視点です。オカリナ工房での一コマ。
A trace of fragrance
SideB: 然也
オカリナは土から作られる。土から粘土を作り、その粘土に水を加えてこね、成型して楽器としての体裁を整え、粘土の湿気を飛ばして焼成する。
その土はというと、年に一度「外」へ採取に出かける。採りに行く場所はいつも同じだった。ドームの北東に広がる丘陵地帯。立ち枯れた木々に覆われた斜面にその場所はある。地表に降り積もった砂塵を取り除き、30センチばかり掘り返すと、灰色とも茶色ともつかない見事な粘土質の土が現れる。
こんな場所をどうやって見つけたのか工房主の音無に尋ねてみたことがある。「家内ですよ」と彼は目も合わさずさらりと答えた。「焼き物作りが趣味でしたから」
彼が結婚していたことをそのとき初めて知った。というのも現在、音無は妻も子どももなく一人で暮らしているからだ。
なぜ音無が妻を失ったのか、さすがにそこまでは踏み込めなかった。音無の背後に濃く重い闇を感じてそれ以上口をきく気になれなかった。
濃く重い闇──それは実際に目で見える類のものではないが、確かに存在する。そして然也はその闇の感触を遠い昔から知っている。
「然さん、そろそろ終わりません?」
気がつくと圭介がそばに立っていた。
「ああ、もう少し……」
然也は生返事をしたきり、オカリナを形作る手を休めようとしない。オカリナの形に成型した粘土を半分に割って中をくりぬく作業をしているところだった。削り具合によって音質が変わるのだが、なかなか納得の行くように削れない。集中しようとすればするほど、余計な雑念がわいてきて作業の邪魔をする。
圭介はしばらく然也の手元を見守っていたが、やがて言いにくそうに口を開いた。
「いちおう終業時間過ぎてますよ。ほかの人たちはもう帰っちゃいましたし」
「わかってる。圭介、お前も先に帰っていいぞ。あとはオレが片付けとくから」
工房の施錠など、建物自体の管理は音無の役目だが自宅が工房のすぐ隣にあるので、工房の閉鎖時刻も終業時刻もあってないようなものだし、特にこの日は音無は外出中で、戻るのは遅い時刻になる予定だ。
しかし、圭介は動こうとしない。まだ用があるのかと見上げると、
「然さん、今日は朝から何も食べてないんじゃないですか?」
ときた。言われてみればそうかもしれない。作業に夢中になりすぎて食事のことなど頭から抜け落ちていた。時々そういうことがある。土に触れていると、自分が形作っているものに心が引きずり込まれて、身の回りのことなどすっかり忘れてしまう。
圭介に指摘されたとたん、ひどい空腹感に襲われた。然也は道具を置いて伸びをした。
「どうも集中力が続かないと思ったら、腹が減ったせいか」
「絶対にそうですって」
圭介が笑いをこらえながら答えた。
「あの、俺が何か買ってきますからお茶でも飲んで待っててください」
「いや、自分で行くから」
と然也は立ち上がったが、ぐらりと景色がゆれた。気づかないうちに消耗していたらしい。
「……悪い。やっぱり頼むわ」
すると圭介は二つ返事で足取り軽く出かけていった。
「あいつ、つくづく人の世話を焼くのが好きなんだな」
然也は不思議な気持ちで圭介の背中を見送り、休憩スペースとなっている中庭へ出た。外はすでに暗く、ライトがベンチ周辺をやわらかく照らしている。風は意外に冷たく、思わず身震いをするほどだった。それでも中に戻らなかったのは、西空の残照が得も言われぬ色合いだったこと、葉ずれの音が心地よかったこと、そして一年に一度、秋のこの時期にほんの数日間しか香らない独特の香気をわずかに感じ取ったからだった。
ぽつぽつと姿を見せ始めた星をぼんやりながめつつ、彼はつぶやいた。
「そういえば明日は歌音(かのん)に会いに行く日だったか」
彼が訪問するようになってから、彼女の容態は安定している。少なくとも悪化はしていない。それに彼自身、彼女の前で吹くことが楽しみになっていた。歌音は心の底からオカリナの音が気に入っているようで、どんな曲を吹いても全身で反応を返してくれる。
明日はどんな曲を吹こうかと然也は頭の中でプログラムを組んでみた。それから中へ戻り、愛用のオカリナを持ち出してきた。秋の空気を伝えられそうな曲を探して吹いてみる。巷で流行っている歌から大昔のフォークソング、伝承曲まで。少しでも気に入った曲なら、2、3度聞けばメロディのコピーはできる。ただ、何度か吹くうちに自分流のアレンジが入り、元の曲とは似ても似つかなくなってゆくことが多かったのだが。
しばらく吹き散らしていたが、桂介はまだ帰ってこない。行き先がいつもの店ならそろそろ戻ってきても良さそうなものをと思いつつ、あまり深く気にせずオカリナを吹き続けた。
「……!」
然也は突然オカリナをおろした。
「やばい。参ったな」
誰が見ているわけでもないのに照れくさそうに頭をかく。歌音の姿を思い描いて吹いていたのに、不意に桃香の姿と入れ替わったのだ。
気持ちを落ち着けようとして無人の中庭に目をやる。庭の片隅にひっそりと闇がたまっていた。しばらくそれを見つめていた然也だったが、オカリナを片付け、Cギアを取り出した。
SideB: 然也
オカリナは土から作られる。土から粘土を作り、その粘土に水を加えてこね、成型して楽器としての体裁を整え、粘土の湿気を飛ばして焼成する。
その土はというと、年に一度「外」へ採取に出かける。採りに行く場所はいつも同じだった。ドームの北東に広がる丘陵地帯。立ち枯れた木々に覆われた斜面にその場所はある。地表に降り積もった砂塵を取り除き、30センチばかり掘り返すと、灰色とも茶色ともつかない見事な粘土質の土が現れる。
こんな場所をどうやって見つけたのか工房主の音無に尋ねてみたことがある。「家内ですよ」と彼は目も合わさずさらりと答えた。「焼き物作りが趣味でしたから」
彼が結婚していたことをそのとき初めて知った。というのも現在、音無は妻も子どももなく一人で暮らしているからだ。
なぜ音無が妻を失ったのか、さすがにそこまでは踏み込めなかった。音無の背後に濃く重い闇を感じてそれ以上口をきく気になれなかった。
濃く重い闇──それは実際に目で見える類のものではないが、確かに存在する。そして然也はその闇の感触を遠い昔から知っている。
「然さん、そろそろ終わりません?」
気がつくと圭介がそばに立っていた。
「ああ、もう少し……」
然也は生返事をしたきり、オカリナを形作る手を休めようとしない。オカリナの形に成型した粘土を半分に割って中をくりぬく作業をしているところだった。削り具合によって音質が変わるのだが、なかなか納得の行くように削れない。集中しようとすればするほど、余計な雑念がわいてきて作業の邪魔をする。
圭介はしばらく然也の手元を見守っていたが、やがて言いにくそうに口を開いた。
「いちおう終業時間過ぎてますよ。ほかの人たちはもう帰っちゃいましたし」
「わかってる。圭介、お前も先に帰っていいぞ。あとはオレが片付けとくから」
工房の施錠など、建物自体の管理は音無の役目だが自宅が工房のすぐ隣にあるので、工房の閉鎖時刻も終業時刻もあってないようなものだし、特にこの日は音無は外出中で、戻るのは遅い時刻になる予定だ。
しかし、圭介は動こうとしない。まだ用があるのかと見上げると、
「然さん、今日は朝から何も食べてないんじゃないですか?」
ときた。言われてみればそうかもしれない。作業に夢中になりすぎて食事のことなど頭から抜け落ちていた。時々そういうことがある。土に触れていると、自分が形作っているものに心が引きずり込まれて、身の回りのことなどすっかり忘れてしまう。
圭介に指摘されたとたん、ひどい空腹感に襲われた。然也は道具を置いて伸びをした。
「どうも集中力が続かないと思ったら、腹が減ったせいか」
「絶対にそうですって」
圭介が笑いをこらえながら答えた。
「あの、俺が何か買ってきますからお茶でも飲んで待っててください」
「いや、自分で行くから」
と然也は立ち上がったが、ぐらりと景色がゆれた。気づかないうちに消耗していたらしい。
「……悪い。やっぱり頼むわ」
すると圭介は二つ返事で足取り軽く出かけていった。
「あいつ、つくづく人の世話を焼くのが好きなんだな」
然也は不思議な気持ちで圭介の背中を見送り、休憩スペースとなっている中庭へ出た。外はすでに暗く、ライトがベンチ周辺をやわらかく照らしている。風は意外に冷たく、思わず身震いをするほどだった。それでも中に戻らなかったのは、西空の残照が得も言われぬ色合いだったこと、葉ずれの音が心地よかったこと、そして一年に一度、秋のこの時期にほんの数日間しか香らない独特の香気をわずかに感じ取ったからだった。
ぽつぽつと姿を見せ始めた星をぼんやりながめつつ、彼はつぶやいた。
「そういえば明日は歌音(かのん)に会いに行く日だったか」
彼が訪問するようになってから、彼女の容態は安定している。少なくとも悪化はしていない。それに彼自身、彼女の前で吹くことが楽しみになっていた。歌音は心の底からオカリナの音が気に入っているようで、どんな曲を吹いても全身で反応を返してくれる。
明日はどんな曲を吹こうかと然也は頭の中でプログラムを組んでみた。それから中へ戻り、愛用のオカリナを持ち出してきた。秋の空気を伝えられそうな曲を探して吹いてみる。巷で流行っている歌から大昔のフォークソング、伝承曲まで。少しでも気に入った曲なら、2、3度聞けばメロディのコピーはできる。ただ、何度か吹くうちに自分流のアレンジが入り、元の曲とは似ても似つかなくなってゆくことが多かったのだが。
しばらく吹き散らしていたが、桂介はまだ帰ってこない。行き先がいつもの店ならそろそろ戻ってきても良さそうなものをと思いつつ、あまり深く気にせずオカリナを吹き続けた。
「……!」
然也は突然オカリナをおろした。
「やばい。参ったな」
誰が見ているわけでもないのに照れくさそうに頭をかく。歌音の姿を思い描いて吹いていたのに、不意に桃香の姿と入れ替わったのだ。
気持ちを落ち着けようとして無人の中庭に目をやる。庭の片隅にひっそりと闇がたまっていた。しばらくそれを見つめていた然也だったが、オカリナを片付け、Cギアを取り出した。
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