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心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake

〈趣味〉 創作とクラシック音楽

〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで

〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。

〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ

〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
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君の街まで約5分
配布元 約30の嘘

新しい10題を始めました。
来年は年頭から長編を書いてみたいので、指慣らしを兼ねて挑戦。
主人公は子ネコです。我が家に帰るまでの小冒険。

01 3丁目裏通り

 町の商店街から一歩内側に入ると、ひっそりと民家が建ち並ぶ通りがある。築数十年という貫禄をただよわせた家が多く、玄関の入り口はほとんどが引き戸、庭は必ずといっていいほど板塀や生垣で囲われていた。中には、かつては店を開いていたのか、シャッターを下ろしたままのところもある。
 そんな通りの、ある曲がり角に大きないちょうの木と小さなほこらがあった。ほこらの前には小さなダンボール箱がひとつ。中には、子ネコとわずかばかりのキャットフード、箱の表には「だれか飼ってください」とつたない手書きの張り紙。

 やわらかな秋の日ざしが箱の中を照らした。中の子ネコが目を覚ました。顔にふりかかっていた黄金色の葉をふりはらい、あくびをした。白とグレーの縞模様のメスだった。前の左足だけ、足袋をはいたように真っ白だ。
 子ネコは箱からわずかに頭を出してあたりをうかがい、匂いをかいだ。見たことのない風景、かぎなれない空気。すぐそばの電柱に「無名町3丁目」と住所表示がついていたが、ネコに字は読めない。
 次に子ネコは、キャットフードに目を留めた。あいにくそれは新品で封が開いていないうえ、ツメでひっかいて穴をあけるのはひと仕事だ。彼女は面倒だとばかり、ふたたび丸くなって眠りの世界へ逃げこむことにした。うとうとしかけたところに人の足音が聞こえ、すぐそばで止まった。知らない人間の気配がする。子ネコは寝ているふりをした。
「かわいそうにねぇ。よりによってこんな場所に捨てていくなんて、神様がなんとかしてくれると思っているのかしら。ひどい飼い主ね」
 声の主はそれだけ言うと、子ネコのためにキャットフードの袋を破るでもなく、ましてや拾い上げることなどせず、すぐに去っていった。
 子ネコは「神様」が何であるか知らない。彼女にとっては、もといた場所こそすべてだ。
 人の気配が完全に消えると、子ネコは立ち上がった。キャットフードをちらりと見て、それから箱からしなやかに飛び出した。空では太陽が西に傾きかけていた。
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