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心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
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〈管理人名〉 O-bake

〈趣味〉 創作とクラシック音楽

〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで

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時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。

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びおら弾きの微妙にズレた日々
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その昔サイトに載せていたクリスマス小話がバージョンアップして帰ってきました。
このシリーズを続ける羽目になった元凶発端となった話です。
本当にあの時は何を血迷ったんでしょうねぇ……。

で、この話を書き直しながら、タイヤに刺さったクギを思い浮かべていました。刺さったクギは下手に抜くと、タイヤの空気がすっかり漏れてぺしゃんこになって車を動かせなくなっちゃうんですよね。

Salty White Christmas

「どうしてクリスマスというと雪なのかしら」
 朝日に目を細めつつ桃香は額に手をかざして、自然公園を見下ろした。ほんの数日前までは葉を落とした木々が池のまわりに渋い彩りを与えていたのに、今は何もかも見事なまでに白い。時おり、枝から雪が落ちる音がするほかに物音はなかった。早朝の展望台は、いつも以上に静かだ。
「いくら人工的に雪を降らせられるからって、毎年毎年ホワイトクリスマスにしなくてもいいのにね」
「雪で悪いことがあるか?」
 傍らで然也がつぶやいた。
「だって、何もかも白く覆ってしまうでしょ」
「ああ。確かに雪が積もっているとゴミ箱まで何かのオブジェみたいに見えちまう」
「もう、然さんたら!」
 桃香は思わず笑みをもらした。明けたばかりのクリスマスの朝は、どことなく神聖さが漂い、いつもより空気が澄んでいる気さえする。
 でもそんなのはただの錯覚で、神聖さの正体は祭りの後の気だるさだと桃香は感じる。ここは、いくら空調が整備されているとはいえドームに覆われた閉じた世界なのだから。もし神と呼ばれる存在がいるとしても、天上の世界にいるのなら、せっかくの恩寵はここまで届かないだろう。
 最近、桃香の心にずっと小さなトゲのようなものが刺さっていて、それがどうやってもぬけなかった。彼女はひとつ、ため息をついた。
「この雪の風景がね、醜さも汚さもごまかして、本当は美しくない世界をきれいに見せて、いかにも今日は特別な朝だ、みたいなふりをしているように見えるのが嫌なの。ゴミ箱はどう飾りたててもゴミ箱なのに」
「雪にからむなんて桃さんらしくない。何かあったのか?」
「……特別なことがあったわけじゃないわ」
「そうか」
 然也は手袋をしたまま手すりの雪をすくいあげた。
「何だかんだ言ったところで、雪は水の結晶でしかないしな」
 そうしてさらさらと指の間からこぼして見せた。こぼれた雪は光を反射してキラキラ輝く。
 ああ、きれいだ、と桃香は素直に感じた。こうして彼と一緒にいれば、恐いものなど何もないのではないかと思えてくる。
 彼女の中のトゲが言葉の形を成した。
「仕事で出会う人たちを見ているとね、自分がどれほど力が無くて頼りない存在か、身に染みてわかるの」
「いくら仕事だからって全員を救えると思う方が間違ってる」
 即答だった。
「そりゃそうだけど……」
「救えると思う方がむしろ驕りだぜ」
「でも、実際に苦しんでいる人を目の前にすると、何とかしたいって思うじゃない?」
「まあ……な。ただ、苦しみにしても喜びにしても、当の本人でしか背負えないと思うんだ。それを他人がどこうするなんて、余計なお節介じゃないのか?」
 桃香は何も答えず然也をじっと見つめる。然也の目がまっすぐに桃香を捉えた。
「だって簡単なことだろ。今、桃さんが悩みを抱えている。その悩みに真っ向から向き合えるのは君のほかに誰がいる?」
 桃香は目を伏せ、首を横に振る。
「たとえ、代わりにオレがに背負ってやりたくても、できるのはせいぜい一時の気休めだ。逆にオレが何かで苦しむことがあったとしても、それは他の誰にも背負わせることはできないだろうしな」
「そう……。確かにその通りかもしれないけど」
 桃香は知っていた。気休めが気休め以上の働きをすることもあるのだと。
 桃香は手すりの雪を払い落とし、両腕をのせた。朝日は高くなり、池を取り巻く散策路に足跡が増えた。ここにいても、活動を始めた街が少しずつざわめいてくるのがわかる。桃香は深呼吸をして心を決めた。
「前から考えていたことがあるの」
 然也が振り向いて言葉の続きを待つ。
「この国を出て勉強をやり直すわ」
 予想もしなかった発言に、彼は目を丸くして桃香を見つめた。
「本気か……?」
「ええ。もう必要な情報は集めてあるし、あとは動くだけ」
 沈黙が落ちる。たっぷり30秒は過ぎたころ、ぼそりと然也は言った。
「で、いつ行くんだ?」
「たぶん来年の夏か秋。1年で帰ってくる」
「1年、か……。話半分に聞いておこう」
「あんまり信用されていないみたいね」
 桃香は苦笑した。
「これから飛び立とうとする鳥に、縄をかけておくわけにはゆかないだろ。桃さんの決めたことなんだから行ってくればいい」
 然也はさっと手すりから離れ、階段へ向かって歩き始めた。なぜここを出なくてはいけないのかとか、他に方法はないのかとか、何も尋ねなかった。
 後を追おうとした桃香は、はっと立ち止まった。彼の背中があの時と同じだ。近づこうとする人間を拒否するような空気を負っている。
「然さん……?」
 彼は別れの挨拶代わりに背を向けたまま片手を挙げ、階段を降りていった。
 人はどうしようもなく孤独な存在なんだと桃香は痛感する。それを幸いととるか不幸ととるかは別にしても。
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