心のつぶやきを吐き出す裏ブログです。
ブログのプロフィール
〈管理人名〉 O-bake
〈趣味〉 創作とクラシック音楽
〈主な内容〉
創作に関する覚書
ごくたまに掌編を掲載
テリトリーは童話からYAまで
〈お願い〉
時々、言葉が足りないために意味不明な文章があったり、攻撃的な文章がありますが、ここは毒吐き場なので、どうぞ見過ごしてやってください。
〈連絡先〉
管理人へのメッセージは、こちらのフォームからどうぞ
〈本家ブログ〉
びおら弾きの微妙にズレた日々
(一方通行です)
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小話シリーズ、1年ぶりってどういうことよ? というぐらい久々の続きアップです。
ここから一気に(一ヶ月以内を目指して)最終話まで持ってゆく予定ですが、まずは七夕話B面からどうぞ。次作はたぶん1週間後ぐらいに。
ちなみにA面はこちら→When you wish upon...
ここから一気に(一ヶ月以内を目指して)最終話まで持ってゆく予定ですが、まずは七夕話B面からどうぞ。次作はたぶん1週間後ぐらいに。
ちなみにA面はこちら→When you wish upon...
Over the Ceiling
「ここに集まってるやつら、本気であのイミテーションに願掛けをするつもりなんだろうか」
芝生に寝ころんで夜空に映し出された天の川を眺めつつ、然也はつぶやいた。
「イミテーションでなくて、今ごろ雲の上で輝いているはずの牽牛と織女だと思いますけど」
同じく隣で仰向けにのびている圭介がのんびりと答える。
二人は自然公園の野外ステージ前の芝生広場にいた。この日は七夕イベントが開かれていて、夕方の6時から9時まで様々な音楽団体がミニコンサートやライヴを行うことになっている。今は入れ替わりのための休憩時間中だった。次はオカリナの演奏グループの予定だ。そこで使用されるのは言うまでもなく音無の工房で作られたオカリナで、然也や圭介の手がけた楽器も入っているはずだった。
「神や仏ならともかく、星に願いをかけるっていうのも、妙な話だよな。星が何してくれるわけでもないのに、気休めにもなりゃしない」
「言われてみればそうかもしれないですけど、ドームの向こうにある本物の空にも、今ごろああやって星が散らばっていると思うと、それだけでこの世界にいて良かったとか思いません?」
「この目で本物の星空を拝むなんて、天地がひっくり返りでもしない限り無理だっていう時代に? 相変わらず目出度いヤツだな」
「自分でも時々そう思いますよ」
「……まぁ、それがお前のいい所なんだけどな」
圭介はわずかに得意げな笑みをちらりとこぼすと、起き上がってCギアを操り、このイベントの情報を取る。
「そろそろ時間ですね。えっと、次が例の〈星間の風〉てグループでしたっけ」
然也も身体を起こし、Cギアを取り出して時間を見る。と、桃香から連絡が来ているのに気がついた。内容を確認すると、無言のままポケットにギアを突っ込んだ。
「桃香さんですか」
「ああ。仕事が終わらないらしい」
「もしかして来れそうにないとか」
「たぶんな……。お前こそ、あいつに声かけたのか」
「あいつ」とはもちろん杏樹のことだ。
「ええ、掛けることは掛たんですけどね……」
圭介が口ごもる。
「ふられたのか?」
「それがですね、さっき向こうの端で会いましたけど、何人も友だちを連れてきてて、俺の入る余地はどこにもなかったですよ」
ははは……と無理に笑おうとする圭介の姿はどこか痛ましい。
ステージの準備が整い、オカリナを手にした若者たちが登場し、紹介と挨拶を始めた。彼らは以前、音無の企画した演奏会を聞いてオカリナの魅力に取り憑かれたという。今度は自分たちが人を癒す側に回りたいと語っているが……。
最後の台詞に然也と圭介は思わず顔を見合わせた。
「おい、今、あいつら何て言った?」
「あはは、何か聞こえましたね」
いつもは温厚な圭介の顔も心なしかひきつっている。
「『わけあってパートナーの側にいられない人のために』だって?」
「俺、退場していいですか」
「できればオレもそうしたい」
そうして二人はこっそりため息をついた。実際には逃げ出すわけにいかなかった。然也たちにとっては、自作の楽器の音を客観的に聞く貴重な機会なのだし、そもそもこのミニコンサートを企画したのが音無と来ている。必ずあとで感想なり意見なりを求められるはずだった。
演奏が始まった。すると二人の間からはふざけた空気が消え、耳に届く音を真剣に吟味する顔つきに変わった。
古今東西の恋人たちを扱った名曲を取り上げるという話だったが、確かにそういったプログラムだ。流行の曲に混じって、れっきとしたクラシックからの抜粋、古典的なポップスやロックも混じっている。悪くない選曲(音無が関わっているのだから当然かもしれない)だと思う一方で、それにしても、と然也は半分あきれながら思う。世の中にはうまくいかない恋を扱った歌の何と多いことだろう。歌曲は人の不幸を栄養に生命力を得るのかと。
「あれ、次の曲では音無さんも吹くんですね」
圭介がステージの左端に目をやる。そこには確かに見慣れた工房主がオカリナを抱えて立っている。最近ステージに立つことの無かった彼だが、もしかするとメンバーに乞われたのかもしれない。が、然也はどうも腑に落ちなかった。
やがて然也の耳にひどく悲しげなメロディが届く。
(この音は……!)
そのメロディを奏でているのは音無であり、彼が使っているのは、間違いなく然也の作ったオカリナだった。しかも歌音を亡くして参っていた時に作ったもの。その音だけ他のオカリナとは明らかに違う。異質だった。
荒野を吹き渡る風を想起させるような、鬱屈した物悲しい音色。こうして聞いてみると、あの時、音無は決してからかっていたわけではないとわかる。そのオカリナには一つの風景と思念が込められており、吹き手によってその特色が惜しみなく発揮されているのだった。
然也は嫌でもその音色に引き込まれずにはいられなかった。心の奥底から得体の知れない何かが引きずれ出されそうになる。記憶の封印さえこじ開けてしまいそうな、ある意味破壊的なパワーが押し寄せ、だんだんと然也の心がざわついてくる。彼は気づかないうちに胸に手を当てていた。
予期しない別れ。いくら探しても求める相手が見つからないもどかしさ。二度と会えないと知りながら、なおその面影を探し続ける虚しさ。生々しい感情と痛みが走る一方で、どこにそんな記憶がしまわれていたのか不思議でならない。
彼は深く息を吸い、目を閉じ、心を閉じようとした。
心を引き裂くような悲鳴が聞こえた。然也の意識はたちまち現実世界へ戻ってきた。演奏は続いているものの、客席の一部が騒然となっている。客席では一人の女性がもがいているのを連れの女性が必死で抑えている。たちまち警備員が駆けつけて彼女を保護し会場外へ誘導する。その一行が然也たちのすぐ後ろを通っていったとき、悲痛なつぶやきが然也に届いた。
――あの人のいる場所へ連れて行って! お願い……こんな虚ろな世界はもう耐えきれない。
彼女はきっと封印が壊れてしまったのだ。そう然也は直感した。
圭介はといえば、我を忘れたように演奏に聴き入っている。果たして彼には開けてはならない封印があるのだろうか。そんなもの、できれば持っていない方がいいと然也は思う。
音無の持つオカリナは静かに最後の一音を鳴らし終えた。音無の顔は心なしか満足げに見えて然也はひやりとした。
ミニコンサートが終わると、然也はすっかり脱力して再び芝の上に身体をのばした。その隣で圭介は空のステージに目をやりながら、珍しく興奮しきってしゃべっている。
「音無さんの演奏、すごかったですね」
「ああ」
「久しぶりに背中がぞくぞくしましたよ」
「だろうな」
「今から音無さんのところへ行ってみません?」
「後片付けで忙しいんじゃないのか」
「あの……然さん? どうしちゃったんです」
「オレさ、もし可能なら明日にでもあのオカリナを壊したい」
「なんでですか! もったいない」
圭介は信じられないとばかりに、どん、と芝の上に手をつく。が、然也は憂鬱そうに上を向いたまま答えた。
「ありゃ危険物だ」
「いや、芸術品です」
「そんなに買いかぶるなよ。現にさっきだって一人おかしくなった」
「あれは偶然です。それこそ気にしすぎですよ。ついでに言わせてもらいますけど、然さんがあのオカリナを割り捨てたとしても、またいつかあれ級のブツを作りますよ。そういう人なんですから」
「そしたらまた壊すだけだ」
「頑固ですねぇ……」
「余計なお世話だ」
然也は作り物の夜空を眺め、本物を見ることができればと切に願う。土の上に転がるちっぽけな自分が、実は果てのない宇宙とつながっているのだという確証が欲しくてたまらなかった。今、願い事があるとしたらそれだけだ。
……いや。違った。
然也はポケットに突っ込んだままのCギアに手を伸ばす。向こうが来れないなら、こっちから会いに行けばいいのだ。簡単なことじゃないか。
「ここに集まってるやつら、本気であのイミテーションに願掛けをするつもりなんだろうか」
芝生に寝ころんで夜空に映し出された天の川を眺めつつ、然也はつぶやいた。
「イミテーションでなくて、今ごろ雲の上で輝いているはずの牽牛と織女だと思いますけど」
同じく隣で仰向けにのびている圭介がのんびりと答える。
二人は自然公園の野外ステージ前の芝生広場にいた。この日は七夕イベントが開かれていて、夕方の6時から9時まで様々な音楽団体がミニコンサートやライヴを行うことになっている。今は入れ替わりのための休憩時間中だった。次はオカリナの演奏グループの予定だ。そこで使用されるのは言うまでもなく音無の工房で作られたオカリナで、然也や圭介の手がけた楽器も入っているはずだった。
「神や仏ならともかく、星に願いをかけるっていうのも、妙な話だよな。星が何してくれるわけでもないのに、気休めにもなりゃしない」
「言われてみればそうかもしれないですけど、ドームの向こうにある本物の空にも、今ごろああやって星が散らばっていると思うと、それだけでこの世界にいて良かったとか思いません?」
「この目で本物の星空を拝むなんて、天地がひっくり返りでもしない限り無理だっていう時代に? 相変わらず目出度いヤツだな」
「自分でも時々そう思いますよ」
「……まぁ、それがお前のいい所なんだけどな」
圭介はわずかに得意げな笑みをちらりとこぼすと、起き上がってCギアを操り、このイベントの情報を取る。
「そろそろ時間ですね。えっと、次が例の〈星間の風〉てグループでしたっけ」
然也も身体を起こし、Cギアを取り出して時間を見る。と、桃香から連絡が来ているのに気がついた。内容を確認すると、無言のままポケットにギアを突っ込んだ。
「桃香さんですか」
「ああ。仕事が終わらないらしい」
「もしかして来れそうにないとか」
「たぶんな……。お前こそ、あいつに声かけたのか」
「あいつ」とはもちろん杏樹のことだ。
「ええ、掛けることは掛たんですけどね……」
圭介が口ごもる。
「ふられたのか?」
「それがですね、さっき向こうの端で会いましたけど、何人も友だちを連れてきてて、俺の入る余地はどこにもなかったですよ」
ははは……と無理に笑おうとする圭介の姿はどこか痛ましい。
ステージの準備が整い、オカリナを手にした若者たちが登場し、紹介と挨拶を始めた。彼らは以前、音無の企画した演奏会を聞いてオカリナの魅力に取り憑かれたという。今度は自分たちが人を癒す側に回りたいと語っているが……。
最後の台詞に然也と圭介は思わず顔を見合わせた。
「おい、今、あいつら何て言った?」
「あはは、何か聞こえましたね」
いつもは温厚な圭介の顔も心なしかひきつっている。
「『わけあってパートナーの側にいられない人のために』だって?」
「俺、退場していいですか」
「できればオレもそうしたい」
そうして二人はこっそりため息をついた。実際には逃げ出すわけにいかなかった。然也たちにとっては、自作の楽器の音を客観的に聞く貴重な機会なのだし、そもそもこのミニコンサートを企画したのが音無と来ている。必ずあとで感想なり意見なりを求められるはずだった。
演奏が始まった。すると二人の間からはふざけた空気が消え、耳に届く音を真剣に吟味する顔つきに変わった。
古今東西の恋人たちを扱った名曲を取り上げるという話だったが、確かにそういったプログラムだ。流行の曲に混じって、れっきとしたクラシックからの抜粋、古典的なポップスやロックも混じっている。悪くない選曲(音無が関わっているのだから当然かもしれない)だと思う一方で、それにしても、と然也は半分あきれながら思う。世の中にはうまくいかない恋を扱った歌の何と多いことだろう。歌曲は人の不幸を栄養に生命力を得るのかと。
「あれ、次の曲では音無さんも吹くんですね」
圭介がステージの左端に目をやる。そこには確かに見慣れた工房主がオカリナを抱えて立っている。最近ステージに立つことの無かった彼だが、もしかするとメンバーに乞われたのかもしれない。が、然也はどうも腑に落ちなかった。
やがて然也の耳にひどく悲しげなメロディが届く。
(この音は……!)
そのメロディを奏でているのは音無であり、彼が使っているのは、間違いなく然也の作ったオカリナだった。しかも歌音を亡くして参っていた時に作ったもの。その音だけ他のオカリナとは明らかに違う。異質だった。
荒野を吹き渡る風を想起させるような、鬱屈した物悲しい音色。こうして聞いてみると、あの時、音無は決してからかっていたわけではないとわかる。そのオカリナには一つの風景と思念が込められており、吹き手によってその特色が惜しみなく発揮されているのだった。
然也は嫌でもその音色に引き込まれずにはいられなかった。心の奥底から得体の知れない何かが引きずれ出されそうになる。記憶の封印さえこじ開けてしまいそうな、ある意味破壊的なパワーが押し寄せ、だんだんと然也の心がざわついてくる。彼は気づかないうちに胸に手を当てていた。
予期しない別れ。いくら探しても求める相手が見つからないもどかしさ。二度と会えないと知りながら、なおその面影を探し続ける虚しさ。生々しい感情と痛みが走る一方で、どこにそんな記憶がしまわれていたのか不思議でならない。
彼は深く息を吸い、目を閉じ、心を閉じようとした。
心を引き裂くような悲鳴が聞こえた。然也の意識はたちまち現実世界へ戻ってきた。演奏は続いているものの、客席の一部が騒然となっている。客席では一人の女性がもがいているのを連れの女性が必死で抑えている。たちまち警備員が駆けつけて彼女を保護し会場外へ誘導する。その一行が然也たちのすぐ後ろを通っていったとき、悲痛なつぶやきが然也に届いた。
――あの人のいる場所へ連れて行って! お願い……こんな虚ろな世界はもう耐えきれない。
彼女はきっと封印が壊れてしまったのだ。そう然也は直感した。
圭介はといえば、我を忘れたように演奏に聴き入っている。果たして彼には開けてはならない封印があるのだろうか。そんなもの、できれば持っていない方がいいと然也は思う。
音無の持つオカリナは静かに最後の一音を鳴らし終えた。音無の顔は心なしか満足げに見えて然也はひやりとした。
ミニコンサートが終わると、然也はすっかり脱力して再び芝の上に身体をのばした。その隣で圭介は空のステージに目をやりながら、珍しく興奮しきってしゃべっている。
「音無さんの演奏、すごかったですね」
「ああ」
「久しぶりに背中がぞくぞくしましたよ」
「だろうな」
「今から音無さんのところへ行ってみません?」
「後片付けで忙しいんじゃないのか」
「あの……然さん? どうしちゃったんです」
「オレさ、もし可能なら明日にでもあのオカリナを壊したい」
「なんでですか! もったいない」
圭介は信じられないとばかりに、どん、と芝の上に手をつく。が、然也は憂鬱そうに上を向いたまま答えた。
「ありゃ危険物だ」
「いや、芸術品です」
「そんなに買いかぶるなよ。現にさっきだって一人おかしくなった」
「あれは偶然です。それこそ気にしすぎですよ。ついでに言わせてもらいますけど、然さんがあのオカリナを割り捨てたとしても、またいつかあれ級のブツを作りますよ。そういう人なんですから」
「そしたらまた壊すだけだ」
「頑固ですねぇ……」
「余計なお世話だ」
然也は作り物の夜空を眺め、本物を見ることができればと切に願う。土の上に転がるちっぽけな自分が、実は果てのない宇宙とつながっているのだという確証が欲しくてたまらなかった。今、願い事があるとしたらそれだけだ。
……いや。違った。
然也はポケットに突っ込んだままのCギアに手を伸ばす。向こうが来れないなら、こっちから会いに行けばいいのだ。簡単なことじゃないか。
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