じつは、最近まともに眠れた日がとても少ない。

仕事から帰ってきて夕食をとると、じきに睡魔がやってくる。
それを無理に堪えて入浴でしようものなら、湯船で夕寝というシャレにならない事態になるので、夕食後は思い切って寝てしまう。
だいたい夜中の２時とか３時にむくりと起きて、そこから食器洗いとか洗濯物たたみ、そしてお風呂。一通り終わるとたいてい４時をまわる。そこでベッドに潜り込めばまだマシなのだが、ここで悪い癖というか新習慣というか――スマホのアプリを使って瞑想を始めてしまう。
しかも、瞑想といいながら１０分もするとソファに座ったまま寝落ちする。とても深い眠りにストンと落ちてゆくのだ。
そしてはっと気づくと５時過ぎ。ここで浮腫んだ足を引きずりながら、ようやくベッドへ。一時間くらいウトウトするともう起床時間。

こんな生活が身体にいいわけがない。真夜中に瞑想を初めてそのまま値落ちするのがいいこととも思えない。でも「瞑想」をやめられないのは、脳みそのリセット&リフレッシュをしている、という感覚が必要だからかもしれない。ごく当たり前に考えれば、まともな時間に布団にもぐりこみ、朝まで５時間とか６時間とかノンストップで眠るほうがよほど健康的に決まっているのだから。

その瞑想の最中、呼吸に集中してできるだけ頭の中を空にしていると、面白いことに外部の情報が流れ込んでくる。まわりの気配（音やにおいや光、空気などを含む）が押し寄せるように流れ込んできて、映像を結ぶ。この頃は時期的に春の気配が濃い。特に天気のいい日だと、外はゴキゲンな気配に満ちている。植物や動物にとっては確かにそうだろう。気温が上がり、雨が増え、これからパワーを解放させるべく、その時を楽しげに待ち構えているかのような気配。
鬱々とした自分の（仕事の）世界とのギャップに驚き呆れつつ、世界が自分の気持ちとまったく無関係に動いていることに安堵の気持ちを覚える。

とはいえ、自分の軸足は本来、この楽しげな世界に置くべきであることもわかっている。

自然の気配に満ちた世界のさらに向こう、いわば「ここではないどこか」も確かに存在し、そこに心の故郷とでもいうべき懐かしい場所があることも知っている。

その場所を確認するために瞑想アプリに手を出すのかもしれない。かつては、そんなものの力を借りなくても物書き用のパソコンさえあれば、いつでもたどり着けたものを。